第10話:図書室の探索
僕らは一階に降りて図書室に向かう。照れくさくって、つい僕が先に歩きだしちゃったけど、場所がわからないのでステラと前後を入れかえる。さらにはずかしい気分。
トラウムには、ステラと話をしてほしいって言われてたのに、ついだまってしまう。
図書室は、資料室のちょうど真下くらいにあった。
ステラが扉を開けると中は、いかにも本がある部屋って感じで薄暗く、少しほこりのにおいがする。放課後に本を読んでいる生徒が、ちらほら見えた。
「ここは本ばかりの部屋です。星の石があるようには思えませんが、棚の上や影になっているところ、古い書物をしまってある小部屋もあります。その辺りも探すことにしましょう。図書室は本を読むところですので、あまり声は出されませんように」
まずい……。ここじゃそもそもしゃべれないじゃん。
しかたない、今は星の石探しに集中することにしよう。
いちおう手近な本棚から探し始める。でも、当たり前だけど、本棚には本が置かれているわけで、星の石みたいな大きなものをかくせる場所はないはず。
ステラが言ったみたいに棚の上ものぞいてみるけど、何ものっていない。
たまに本が借りられているのか、すきまのある棚もあったけどもちろんそんなところにはありそうになかった。
結局しばらく探してみたけど、やっぱり本棚にはないってことがわかっただけだった。
ステラは図書室の奥の方を探しているみたいだった。
なんとなくひまになってしまった僕は、その辺の本を手に取ってみる。でも、残念ながらこの星の文字は僕には読めなくて、絵だけをぱらぱらとながめていた。
ほとんどわからなかったけど、それでもいくつかの本はなんとなく内容がわかった。
この星の景色の絵みたいなのがたくさん書かれた本とか、建物がたくさんかかれた本とか、あとはきっと日常の風景なんだろうなって思える絵が描かれた本とかがあった。
全然見たことのない景色なのに、どれも自分の街でも見たことがありそうで、ついいろいろと読みふけってしまっていた。
そんな中に、一冊気になる本を見つけた。
きれいな、たぶん石の絵が表紙に描かれた本だった。
ひょっとしてこれ……と思ったところに声がかけられた。
「それは星の石に関しての本ですね。参考になりそうなので少し読んでみましょうか」
ステラの声だった。どうやら向こう側の探索を終えたから、僕を探しに来たみたいだった。サボっていたようでちょっとだけもうしわけなくなる。
「あっちに読書ができる場所があります。そちらに行きましょう。今ならだれもいませんので、少しは話もできるかもしれません」
「うん、わかった」
小声のステラにあわせて僕も小声でしゃべる。
奥の方にステラの言っていた読書用のスペースがあった。本棚に囲まれて長机といすがたくさん置かれている。
僕らはなんとなく端っこの方で、並んですわった。
「まずは結果から。私の方は何も見つけられませんでした。一応、古書の部屋も見ましたがおそらくないでしょう。星太さんの方は……、言うまでもないですね。本を読むよゆうがあったくらいですから」
「ごめん、いちおう最初はちゃんと見てたんだけど、ぜんぜんみつからなくって……あと気になる本がたくさんあったから」
「まあいいでしょう。情報を手に入れることで、星太さんの『みつける』力が上がるとトラウムも言っていましたし。ところで星太さんは、読書がお好きなんですか?」
「うん、結構好き。ふだんは星の本とか、宇宙の本とかそういうのばっかりだけど」
「そういえば、星太さんは星にくわしかったとトラウムが言っていましたね。私も本はよく読みます。私も星の本はよく読んでいるんですよ」
「そうなんだ! ちょっと意外!」
「声が大きいです」
「ご、ごめん。つい」
ステラがしーっと口に手を当てて言って、僕はあわてて口を押さえる。そういえば、この静かに、ってするポーズこっちでもいっしょなんだな。
「でも、同じ星の本でもいろいろと違うんだろうなあ。星の場所が違うから見える星も違うだろうし、ひょっとしたら同じ星でも見え方が違うかもだし」
「そうかもしれませんね。星太さんの星の本読んでみたいです」
「僕もだよ、せっかく別の星に来るなんてすごい機会もらったのに。文字が全然違うんだもんなあ。残念」
「そうですね。逆に星太さんの星の本も私には読めないでしょう」
そこまで言ったところでふと気がついた。
「あれ? そういえばなんで僕とステラって話せるんだろう。トラウムはなんとなく星の精霊だからって納得してたけど。よく考えたら不思議」
「それはトラウムの力ですね。なんでも意志を相手に伝えるようにする術だとか」
「へえ、それでこうやって話せるんだね。トラウムに感謝だ」
「それについてはその通りですね。こうして星太さんと会えたことも終わってみればトラウムに感謝しなくてはならないのかもしれません」
そう言うステラの顔は、ちょっとすねているようで可愛かった。
「ひょっとして、トラウムに言ったらこの本も読めるようになったりするかな?」
「どうでしょう……頼んでみる価値はあるかもしれませんが」
次に会ったら絶対頼んでみようと僕は思った。
「そういえば、この本だけど」
と、さっきの星の石についてのものらしい本を見せる。
「そうでしたね。これは星の本についての生徒たち向けのかんたんな紹介書です。この表紙のものがまさに星の石ですね。本当の大きさはこれくらいです」
と、ステラが手を広げて示す。サッカーボールくらいだろうか。トラウムは頭のおおきさくらいって言っていたな。
「へえ、これがそうなんだね。まんまるなのかと思ってた」
そう、本に描かれていた星の石は、ボールみたいな丸じゃなくて、ごつごつしたとげのようなものがあちらこちらから出ていて角ばっていた。僕らがよく書く★のマークを立体にしたような形。これがイメージできたら次はもっと正確な場所がわかるかもしれない。
図書室には星の石はなさそうだし、今日の収穫はこの情報が得られたことくらいになりそう。だったら、トラウムに頼まれた、ステラと話をするってミッションをもう少しやってみようかな。
「ねえ、ステラはなんで星の本をよく読んでるの? 僕は星をみるのが小さいころから大好きで、別の星のことをもっと知りたいって思ったから。自分の住んでいるところ以外に星があるってすごいなって思って。で、他の星の人がいるなら会ってみたいなって思っててさ。そしたら……」
「まさか、こんな形で実際に会ってしまうとは思いませんでしたね」
「ほんとに! 驚いたよ」
「会えてしまってがっかりしませんでした? 夢が無くなったみたいで」
「ううん、ぜんぜん。むしろ、ステラたちみたいに人がいることがわかったなら、もっと他にもいるかもしれないし超やる気が出てきたところ!」
「星太さんはすごいですね。前向きで」
僕は少し照れくさくなって頭をポリポリとかいた。
「そうかな? そういえばさっきの話だけどステラはなんで星が好きなの?」
そう聞くとステラは少し考え込んだ。
「私は……、そうですね。むしろ星太さんとは逆なのかもしれません」
「逆?」
「はい。私はトラウムから青い星に人が住んでいると聞いていました。あのきれいな星には人がいて、たくさんの街があって、異なる文化がたくさんあると。それにあこがれて空想して、その入り口として星の本を読んでいたのかもしれません」
「そっか……、僕らの星にあこがれてるのか。住んでるといまいちピンとこないけど」
「星太さんの星の方が圧倒的にすてきだと思います」
その言葉は少しだけ強く感じられた。
「そんなこと無いと思うけど、ステラの星もとてもいいところだと思うよ。楽しそうだし思ってたよりもずっと発展してるし」
「そうでしょうか。星太さんはこの星のことを知らないから、そう思うんだと思います」
そう言ったステラの目は少しさみしそうに見えた。
「さて、時間です。そろそろ出ましょう。明日こそは手がかりを見つけないと」
そういって、図書室を出るとステラは自分の部屋に、そして僕はまたトラウムに送ってもらって自分の星に帰ったのだった。
ちなみに、本を読めるようにできるかと聞いたら、そんなところに力は回せませんと普通に断られてしまった。トラウムのケチ。
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