第5話:1日目の授業「星の軌道」\学園とすい星にせまる危機

 教室中が大騒ぎになっている。みんな物珍しそうに僕を見ていた。

 なんだか動物園のオリの中にいるような気分だ。

 辺りを見回してみると、ステラは苦い顔をしているし、トラウムはニコニコしている。

 でも、まあそりゃ大騒ぎにもなるか。

 僕の学校で言えば、月から転校してきましたって言ってるようなもんだし。


 しばらく僕は質問攻めにあった。

 なんで青いんですかとか、どんな食べ物がありますかとか、その服は向こうの制服なんですかとか、すい星にはないものはどんなものがありますかとか、とにかくいろいろ。

 ほとんどが、僕じゃなくて青い星についての質問。

 あんまり答えられなくて、もっと勉強しておけばよかったなあって後悔したりした。

「どうやってこの星まで来たんですか?」って質問だけはトラウムが答えてくれたけど、青い星の不思議な力で来たんですよって適当なことを言ったから驚いた。

 あとでどうなっても知らないぞ。


 大騒ぎの中で、トラウムがパンと一回大きく手を打った。教室が静かになる。

「さ、転校生についてはこれまで。そろそろ授業を始めましょう。星太くんはせっかくなので一番前の席に座ってください。真ん中の席が空いていますから」

 トラウムはそんなことを言って、真っ正面の空き席に僕を座らせた。

 なんで、こんな席が空いてるんだよと思ったけど、トラウムが仕組んだに決まっている。トラウムの性格がわかってきた気がするぞ。

「さて、では授業を始めます。今日からは転校生がきているということで特別授業です」

 おー! と歓声が上がる。この辺のノリはあんまり変わんないなあ。

「今日は『星の軌道』について学んでいきますね」

「はい!」ほかのみんなが元気よく答えている。

「私たちの住んでいるすい星トラウムは、お日さまを中心にぐるっと、ほそながーいまるをえがいて回っています」

 トラウムが後ろの壁を指すとそこに映像が映し出された。ただの壁じゃなくてディスプレイになっていたみたいだ。うちの学校は黒板だから、ずいぶん進んでるように見える。

 ディスプレイには、画面の真ん中に光る大きな円があって、その周りにもっともっと何倍も大きな円を横からぎゅっとつぶしたような線が映っていた。つぶれた円は画面の左下から右上に斜めに倒れている。画面の一番下辺りの線の上には小さな点が乗っていた。

「この線が、このすい星が回っている軌道です。軌道とは星が動く道ということですね。そしてこの点が私たちの星の場所です」

 教室の誰からも特に反応は無い。たぶんみんなこれくらいのことは知っているんだろうな。僕のための説明って感じなのかしら。

「さあ、それでは、これを見てください」

 そう言ってトラウムがディスプレイをぽんっとたたくと、画面の左下に少し小さめの光る円があらわれた。色はきれいな青。

 わーっ、と後ろの席から声が上がる。

「これは何だと思いますか?」

 トラウムが僕の右側にいる生徒を指さした。ステラは一番前の列の左側の窓側にいた。

「はい! 青い星です!」

「その通り!」

 ぱちぱちぱちとはくしゅがなる。

「これが今、空に見えている青い星ですね。実際に見た人も多いと思います。すきとおるように青くて、とてもきれいですてきな星です。星太くんがいた星でもありますね」

 教室中の生徒たちから、いいなーとか声がかけられる。なんだか少し照れくさい。

「今私たちの星は、この軌道でもっとも青い星に近づいているタイミングになっています。最近いちばん話題の天文イベントですね」

 そうなんだ。僕らがすい星が近づいたことがニュースになっていたように、こっちでも

同じようにもりあがってたんだなあ。

「さて、ここからが本題ですが」

 トラウムが少しだけ、声のトーンを変える。声をひそめる感じ。

「実は、今回の青い星への接近はちょっと特別です」

 周りの生徒たちがざわざわし始める。

「気づいている人もいるかもしれませんね。わかる人いますか?」

 トラウムがみんなに問いかけた。今回は特別ってどういうことだろう。

「はい! 青い星がとっても大きく見えるって言ってました!」

 後ろの方にいた女の子が、自分から立ち上がって大きな声でそう言った。

 大きく見える?

「はい、正解です」

 画面をもう一度たたくと画面にもう一本の線があらわれた。すい星の軌道がさっきよりもすごく青い星に近い。画面の上ではぎりぎりをかすめる感じだ。

「今回はいつもと軌道が違うんですね。だから、いつもの接近よりもとっても大きく青い星が見えるようになってます。みなさんは前の回を見ていないでしょうが、何倍も大きく見えてるんですよ。おトクですね」

 そういって、トラウムはにっこりと笑った。

 これってひょっとして……。そう思ってステラを見ると、僕を見て小さくうなづいた。

 そうか。今、このすい星は青い星に向かって落ちている途中だった。それをそのまま言ったら大混乱になるから、こういう言い方でごまかしてるんだ。すい星が落ちるなんてわかったらみんなパニックになっちゃうから。

 それにしても最初のが本当のすい星の軌道だとしたら、今のはめちゃ僕らの星に近い。画面の長さじゃ本当のところはわかんないけど、早く解決しないと大変なことになりそうだ。がんばらないと。

 と思ったところで気がついた。

 そっか……。転校生としてすい星学園に入ったのって、こうやって僕に今の問題とか必要な情報を教えるためなんだ。トラウムは結構いろいろ考えてくれてたんだなあ。

 面白がってばかりじゃいられないんだって、あらためて僕は思い知った。

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