第4話:はじまりのあいさつ\ホームルームと転校生

「星太さんはどれくらいこの学園と星のことを聞いているんですか?」

 ステラがそんなことを聞いてきた。

 授業がはじまるまで、学園内を案内してもらっている間のことだった。

「正直ほとんど知らないんだ。トラウムから聞いてるのは、このすい星が軌道を外れて僕らの星に落ちそうになっているってことくらい。学園のことは、これから転校生になるってこと以外なにも」

 僕の言葉にステラが大きなため息をついた。

「あきれた。よくそんな状態で、こんなところまで来ましたね。あなたの星からだと、はるか別世界でしょうに」

「そうなんだよね! ここって別の星なんだよね、うーんすごいなあ」

「……楽しそうですね。怖いとは思わなかったんですか?」

 ステラが不思議そうな顔をする。

「ううん、まったく。僕ね、星が大好きなんだ。天体観測が趣味で、いつか天文学者か宇宙飛行士になりたいって思ってるくらい。だから、別の星に行けるって聞いてすっごくうれしかった。あとのこととかぜんぜん考えてなかったな」

「遠くの星をながめるのが趣味ですか……」

 てっきりイヤミの一つも言われるかなと思っていたけど、ステラは何も言わなかった。

「どうしたの? だまっちゃって」

「いいえ、何でもありません。あなたがのんきな人だと言うことがよくわかりました」

「まあ、そうかもね」

 その辺りについては自覚もある。よくお母さんとか友達にも言われるもんね。

「まあ、いいでしょう。この学園について説明しますね。この学園は、このすい星の文明の始まりの場所と言われています。すい星トラウムで最初に生まれた意志であるトラウムは、街ができたあとに最も大事なものとしてこの場所をつくりました」

「一番大事なものが学校? もっと他にもあるような気がするけれど」

「私もそう思います。トラウムが何を考えてここをつくったのかはわかりません。あの通りの変人で考えの読めない方ですから、案外なにも考えていないのかもしれませんが」

「うーん、ちょっとだけわかる。トラウムはステラとはどういう関係なの?」

 気になっていたことを聞いてみる。星の精霊っていう名前の割に気さくだし、星の姫にもへりくだってる感じしないし。まあ、それは僕もそうかもだけど。

「難しい質問ですね。私が生まれたときには、トラウムはもうそこにいました。代々の星の姫のそばにもずっとあの人がいたと言います。今は学園の先生ですので、私にとっては先生であり、親代わりでもあり、うるさい世話役といったところでしょうか」

「ふーん、いろいろと複雑なんだね」

 どうにもごちゃごちゃとした関係性らしい。

「話を戻すと、この学園はこのすい星の民の教育をすべて担当しています。人数と地理的に分校もありますがほとんどはここで学び、そして卒業するのです。学ぶのは基本的な読み書き、数の扱い、あとは星の歴史、街の地理などでしょうか」

「その辺は、僕の星の学校といっしょだね。僕らは国語、算数、理科、社会っていうけど。それを僕もこれから受けるのかな」

 どこの世界でも必要な教科って変わらないんだなあ。少しだけ星同士が近い感じがした。なんだかうれしかった。

「どうでしょう。トラウムは特別な授業と言っていましたから、何をやるやら」

 結構ステラは世話好きなのか、いろいろ話をしてくれる。別の星の人で、しかもお姫様なんて偉い人だってことを完全に忘れそうだ。正直同じ学校にいたら、人気者になりそうだなって思う。

「……ステラってなんだか話しやすいね。お姫様なのに、僕のイメージのお姫様ってもっと近寄りがたくて別の世界の人って感じだったけど」

「おおむね、トラウムのせいですね。代々の星の姫はもう少し、星太さんのいう姫に近かったのですが、トラウムがもっと民とふれあうべき、民と話すべきとこの学園の普通のクラスに放り込まれましたから」

 なるほど、それでか。普段からいわゆる『しょみん』とも話してるからこうなるのね。


 そんなことを話していると、向かう先にトラウムの姿が見えた。

 声を出さずに手をぶんぶんと振っている。

「あそこがこれから私たちが通う教室です。一応特別クラスなので人数は少ないですが、他の生徒もいます。転校生など普通ないので覚悟してくださいね」

 覚悟? なにを?

「やあ、よく来ましたね。じゃあ、これからホームルームです。星太くんのことは転校生として紹介するからあいさつ考えておいてくださいね」

 うわ、それ苦手なやつ。

「では、私はお先に」

 頼みのステラはさっさと教室に入ってしまった。中で他の生徒とあいさつしている声が聞こえる。少ししてみなが着席したふんいきが伝わってきた。

「じゃあ、そろそろ始めようか。合図したら入ってきてね」

「あ、そういえば、僕が他の星から来てるってことはどう言えば……」

 そう聞くまもなくトラウムは、教室に入っていってしまう。

「はい静かに~って、元から静かか。お行儀がいいですねこのクラスは。さて、今日はびっくりなお知らせがありますよ。なんと『転校生』がきます!」

 その言葉と同時にどよめきが聞こえる。さっきまでの静かさがうそのようだ。

 うわ、はいりづらい。

「しかも! なんと他の星からの転校生です!!」

「「「えー、うそ!!!」」」あっという間に大騒ぎになってしまった。

 ていうか、普通にそれ言っちゃうの!

「さ、転校生君どうぞ!」

 いやいや、はいりづらいって!

 しかたなく僕は、おそるおそるドアを開け中に入る。あちこちから話し声が聞こえる。

 全員でステラも含めて十人ちょっとだろうか。確かに少ない。

 みんな、ちょっと見たことのない服装をしている。白一色で暗めの金色のラインが少し入ったデザインだ。少し宇宙服っぽいなと思った。

 ステラが特別かと思ってたけど、こういうところでもやっぱり文化の違う星なんだなあと思う。僕の服はひょっとしてめちゃくちゃ浮いているんじゃない?

「あいさつしてー」その声で一瞬で静かになった。

 あとでトラウムに文句を言おう。絶対に。そう僕は心に決めた。

「えっと、あの……、他の星からやってきました夜見星太と言います。星太でいいです。そのー、たぶん少しの間ですけど、よろしくお願いします」

 ぺこりとおじぎ。それと同時にはくしゅと歓声が上がった。

「他の星とかすごーい!」「ようこそトラウムへ!」「なんできたの?」「ていうかどうやってきたの?」「いつまでいるの?」

 質問の嵐だ。どこの学校もこの辺は変わらないようだ。ステラが頭を抱えているのが見えた。なんだか申し訳なくなる。

 一人の生徒が、はい!と手を上げる。多分質問なんだろう。

「どこから来たんですか?」

 僕はトラウムと目を合わせて、トラウムが頷くのを確認してから答えた。

「知ってるかわからないけど、あの……、ここの空からも見える青い星から、です」

 一瞬沈黙があった。そして次の瞬間。

「「うそー! あの青い星って人がいるの!!??」

 今度こそ、大騒ぎになるのだった。

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