第2章\すい星の姫と彗星学園

第3話:星の姫とはじまりのあいさつ

 僕はステラのふんいきに、すっかりおされてしまっていた。

 初めて見たお姫様であること、夢で見たふんいきとぜんぜん違っていること。それが僕の中でどうしてもかみ合わなくてとまどいを隠しきれないでいたんだ。

「……あ、あの、初めまして。僕は、夜見星太。あの、いちおう別の星からきてて、トラウムに、ステラといっしょにこの星を助けてほしいって言われて……、その」

 うまく言葉が出てこない。もっと、この星を助けに来たんだ!なんてかっこよく決めるつもりだったのに。

 その僕を、ステラは一目見て、トラウムに視線を切り替える。

「あなたですね、トラウム。私のビジョンを彼に見せたのは。そういうことはやめてくださいと言っておいたはずですけど」

 ステラの目が若干怖い。

「いやあ、すみません。どうして、この星の状態を見ておいてほしかったものですから」

「どうだか。どうせ何か裏の意図もあったのでしょう。あなたのことだから」

「いやいや、そんなことはないですよ。考えすぎです」

 ステラの態度はトラウムにも厳しい。ただ、トラウムはそのステラのきついあたりをまったく気にせずかわしているようだ。慣れているからなのか、単純に強いのか。

 ステラはため息を一つついて、ようやく僕の方に視線を戻してくれた。

「星太さんでしたね。わざわざ光にも遠いところを来てくださってありがとうございます。聞いての通りこの星は今、危機に見舞われています。このままではあなたの星に衝突してしまうでしょう」

「そういうこと、だから、二人で協力してこの星の危機を救ってほしい」

 トラウムが合いの手を入れる。

「ですが、それは結構です。私一人でこの件は解決してみせます」

「え……?」

 話が違う。協力してやってほしいって言われたから来たのに。

「ステラ、事前に言っておいたじゃないですか。どうしても見つからない星の石を見つける力を持つ少年が彼なのです。二人の力が無いと星の石は見つからないと」

「聞きましたが、承諾はしていません」

「え? え?」僕はとまどうばかり。

「そんなことを言われても困ります。ここまでステラが必死に探していたのは知っていますが、ここまでなんの成果も上がっていないんでしょう」

「その通りです。ですが、これはこの星の問題であり、星の姫である私の責任です。他の星の人の力を借りることではありません」

 思ったよりも、ステラは堅い態度だ。なんだか話が盛大に違ってきた。

「で、でも、今は一人で探してるんだろ? だったら、僕といっしょに二人で探せばもっと見つかりやすくなるんじゃないかな」

 さすがにいたたまれなくなって、僕も口をはさむ。このままだと、すぐに帰れと言われてしまいそうだ。

「そうですよ、ステラ。一人じゃやることにも時間にも限界があります。君は立場上、他の人を頼れないですし、なにより時間があまりない。わかっているはずです」

 トラウムも助けを出してくれる。そうだそうだと、心の中でさけびたくなった。

「確かに行き詰まっているのはその通りです。でも『みつける』力があると言うことですけど、このトラウムを全く知らない他の星の方が、どうやって力になれるというのですか? そもそもここに何があって、どこを探すべきかもわからないのでは?」

 ステラが冷たく言い放つ。でも、その通りだ。実際言われてきてはみたものの、僕はどうやって探せばいいのかわかっていない。すい星までくればなにかわかるのかも、そんなくらいに考えていたから。

「ほら、ごらんなさい。星太さんも困っているように見えますけど」

 これはトラウムへのセリフだろう。ちらっとトラウムを見ると少しにやっとしていた。なんとなくいたずらを企んでいるような表情だと思った。

「ふふふ、そこはしっかり考えていますよ。夜見星太くんには、今日からこのすい星学園の転校生となってもらいます。そして、スペシャルコースの授業を受けてもらうことにしましょう。短期集中型で星の歴史から地理から言葉まで、星の石探索に必要な知識をあっという間に、星太くんにはマスターしてもらうのです!」

 トラウムさんが自信満々に言い放つ。転校生として入るのは僕も事前に聞いていたことだった。どんな授業を受けるのか少し楽しみにしていたが、そういうことか。

 違う星の文化を知るのは、思ったよりも楽しそうだった。

「何を言っているのですか! 別の星の彼を転校生に!? 他の生徒たちにはどう言い訳をするつもりですか」

「そこは、少しばかり精霊の力を使って、認識を上書きしますよ。騒ぎにならない程度にね。青い星からの留学生であることに誰も疑問を持たないようにすればいい」

「……あきれた。立派な精霊力の乱用ですね。学園のことに精霊の力を使うなんて」

「事態が事態なので仕方ありません。とにかくこれは星の精霊としての私の決定です。二人には協力して、この星の危機を解決してほしい。いいかな、星太くん、ステラ」

「うん、僕は大丈夫。なんだか他の学校で学べるなんて楽しくなってきたよ」

 その言葉にトラウムはにっこりとうなづく。

「……仕方ありません。では形だけ協力しますが期待はしません。邪魔もしないように」

 ステラの言葉は相変わらず冷たいが、どうやらコンビは組んでくれるみたい。

 少なくとも帰らされることはなさそうだ。

「うん、よろしく。ステラ」

 僕はあくしゅをしようと手を伸ばしたが、無視されてしまった。

 仲良くなるまで先は長そう。

「さて、これからさっそく二人には授業を受けてもらいます。ステラは星太くんにこの学園のことを簡単に教えてあげておいてください。これは先生としてのお願いですよ」

「承知しました。トラウム先生。あとでおぼえてらっしゃいね」

「この危機が回避できるなら、なんでも。それじゃみんなこれから短い間だけどよろしくおねがいしますね」

「はい! がんばります!」

 まあ、なんだかバタバタしてるけど、ようやく問題解決の冒険がはじまりそうだ。

 僕は、少しだけわくわくしていた。

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