第2話:すい星学園と星の姫ステラ

 扉の向こう側へ足を踏み出すと、真っ白だった景色に少しずつ色が戻ってきた。

 目が慣れてくるといろいろなものが目に入ってくる。

 どうやら僕は、まっすぐ伸びた道の真ん中に立っているようだ。

 周りには木々が茂っていて、森の中にいるように見える。

 さっきの夢の中だと、真ん中の大きな建物の周りに森があったような覚えがある。今はそこにいるのかもしれないと思った。

 そうすると、今いるこの道は、建物に続く道なんだろうか。

 景色的には、自分の星にもあったような景色なので、別の星に来られたのかどうかいまいちわからない。


 周りの景色が普通なので、なにげなく空を見上げてみた。

「あっ」

 思わず声を上げる。そこにはガラスのドームがあった。

 夢で見たすい星の街を囲むドームだ。

 胸がドキドキしてくる。

 さっきの扉は、本当に別の星につながっていたんだ。

 ドームの向こう側を見ると、そこには満天の星空。どうやら今は夜みたいだ。

 時間はさっきからたいしてたっていないのかもしれないと思った。

 ガラスのドーム越しの星空はまるでプラネタリウムの中にいるみたいだった。

 違うのは、明らかに本物の星空なこと。なんて不思議ですごい景色なんだろう。

「すごいや! 本当に別の星に来たんだ!」

 僕は大きな声を上げた。歓声ってやつだ。

 この一歩は人類にとって偉大なる一歩~なんて言ったのは誰だったかしら。

 空をもう一度見ると、そこには大きな青い星が浮かんでいる。

 ひょっとしてあれが僕の星だろうか。月の代わりに輝く青い宝石。そんな感じだった。

 本当に遠くまで来たんだな。そんな思いに浸っていたとき。

「ええ、あなたは星鏡の扉で星を越えたのです。ようこそすい星トラウムへ」

 そんな声が後ろから聞こえた。

 振り向くと、そこには見たこともない大人の男の人がいた。

 背が高くてすらっと細い。白いスーツを着てる。

 銀色の少し長めの髪がさらりとなびいてて、アイドルみたいなかっこいい人だった。

 だれだろう、この星の住民かしら。

「えっと……、あなたは? その、僕は怪しい者ではなくて……」

 なんて、おもわずしどろもどろになってしまう。

 だって、初の異星人遭遇だ。これこそ人類はじめてのことに違いない。

 ただ、向こうにとって異星人なのは僕なんだ。なんていったら説明できるのやら。

 ほんとまさか、僕がそんな歴史的なことに出会ってしまうなんて。

「……ああ、そうか、この姿は見せてませんでしたね。安心してください星太くん、私はトラウム。さっきまで話していた星の精霊ですよ」

「え? あなたがトラウム!?」

 びっくりした。

 精霊なんて言うから、もっとゲームの幻獣とか妖精のような姿を想像していたから。

「実際には、形はないのですが、この街では理由があってこの姿にしています」

「理由?」

「すぐにわかりますよ。さあ、時間がもったいない。いきましょう。説明は道々で」

「う、うん」

 僕は、トラウムの後を着いて歩いて行く。やっぱり、この道をまっすぐ行くようだ。ということは、この先の建物が目的地かしら。 

「この先にはなにがあるの?」

「学校です。この星トラウム唯一の学校、すい星学園があります」

「学校!? そんなのがあるんだ! あ、さっきの夢で街の真ん中にあったのって」

 どの世界にも学校ってあるんだなあ。

「はい、それがすい星学園です。星太くん、あなたにはこの学園の転校生として、この学校に入ってもらいます」

「え? 転校生?」

「はい、それが街の他の人たちに話すにはちょうどよいですからね。異星人は目立つ」

「転校生ならいいの?」

 いや、別に僕は転校した訳じゃないしてないし。そもそもこの街にいくつも学校があるんだろうか?

「そこはうまいことごまかします。まあ、私が言えばおおむね通るでしょう」

「それは、トラウムが星の精霊だから?」

「ええ、その通りです。別に隠してませんからね。それに私はこの学校で先生をやっていたりしまして」

「先生! なるほどね。そんな感じしてたんだ。少しえらそうって言うか、大人っぽいっていうか」

「そういう感じですか……自分ではよくわかりませんが。とにかく星太くんには転校生として、すい星学園に潜入して星の石を探してください」

 おっと、そうだった。目的はそれだったよね。

「でも、なんで学校に入らなくちゃならないの? もっと他のところにあったりとかは」

「理由は二つです。まずこの星は星の石を中心にできあがりました。実は街で最後に星の石の力でできたのがこの学園なのです。ですから、星の石はここにあるはず」

「で、もう一つの理由は?」

「ステラはこの学園の生徒だからです。あなたにはステラと協力して動いてほしい。だっったら、この学園に入学するのが一番わかりやすいですからね」

「へー、お姫様でも学校に通ったりするんだね」

「それも、理由がありまして。その辺りは授業で語られることになると思いますよ。すい星学園では、この星トラウムの歴史や言葉について学ぶ場所ですからね」

「なるほどね。少し楽しみになってきたよ。知らないことが勉強できそう」

「学ぶのが好きなのはよいことです。さあ、見えてきましたよ」

 トラウムが道の先を指さす。

 森が開けて視界が広がった。それと同時に目に入ったのは、大きな建物。

「でっかい! これ学校なの!?」

 そこには、巨大な建物があった。行ってみれば学校よりもお城の方がイメージが近い。

 横にも遙か長く、縦にも高い。

 二階建ての下の部分が庭園を囲むように、こっちに向かってカタカナの「コ」みたいに開いていて、そこからは少し狭くなった中段部分が三階から五階まで続く。

 そしてど真ん中には、まるで塔のようにそびえた細長い建物が十階くらいまで続いている。はっきり言ってとてつもなくなく大きい。僕の通ってる学校とは比べものにならない。でも、造りはどこか学校を感じさせるのが不思議だ。

 ここから見える窓がたくさんあるけど、どれも教室なんだろうか。

「あそこに生徒ってどれくらいいるの?」

「そうですね。ほぼ数百人くらいでしょうか。街の子供のほとんどがここに通っている感じです。まあ、学校と行っても、勉強だけじゃ無くいろんな知識や実践教育なんかもやっていますけどね」

「すっごいなあ、こんなおっきな学校見たことないや。あの大きな塔も教室なの?」

 僕は、特徴的な真ん中の細長い部分を指さして言う。あそこに登ってみたいなって少し思っていた。

「いえ、実はあそこが星の姫ステラの家であり城なのです。ここは学校だけじゃ無くて、図書館や博物館。街の役所なんかも全部はいっている中枢の建物でして。でもメインは一応学校と言うことになっています」

「そっかあ、ちょっと登ってみたかったんだけどな」

 少し残念。

「のぼれますよ」

「え? いけるの?」

「ええ、さっきもいったじゃないですか。あそこがステラの城だって。学校に通う前にステラを紹介しますよ。すでにステラには連絡していますから」

「やった! 楽しみ」

「では行きましょう。ちょっと難しい子ですけど、根はいい子ですから」

「うん、これからいっしょに頑張る仲間だもんね。お姫様なんて会ったことないから、わくわくするな」

「その意気です」

 トラウムはにっこりと笑った。


 僕らは、学校に向けた長い石畳の道を歩き、大きな正門から校舎の中に入る。 

 中はいかにも学校といった感じで、靴箱があったり、左右に長い廊下がつながっていた。 途中に見える部屋が教室なんだろうか。

「二階までが学校ですね。その上は別の建物です」

「ステラのいるところまでは階段なの?」

「さすがに大変ですし、セキュリティもありますから、エレベーターでいきますよ」

「あ、エレベーターあるんだ」

 少し意外。階段で歩くよりずっといいんだけどね。

 入り口からまっすぐ進んだ奥廊下の突き当たりにエレベーターはあった。

 トラウムが手をかざすと、エレベーターのドアが開く。

「許された者しか入れないようになっています」

 そういうと僕を中に入るようにうながした。

 中は普通の狭い箱。この辺りは僕の星と同じだね。

 扉が閉まると、エレベーターは上に上がっていくのがわかった。

「ステラの部屋は最上階です」

「少し、緊張してきた」

 今更だけど、僕はこの星のお姫様に会うんだ。そんなすごい人に会ったことないからどうしゃべっていいのかわからない。少しだけ心臓がバクバクしている。

「怖がることはありませんよ、たぶん星太くんには話しやすい子です。外では取りつくろってますけどね。気軽に話してあげてください」

「うん、わかった」

 そんなことを言っているうちに、最上階に着いたようだ。

 ドアが開く。開いた向こう側には大きな部屋が広がっている。

 向こう側には大きな窓、そして豪華なテーブルと椅子とふかふかのじゅうたんの床。

 カーテンは見たことのないくらいきれいな布で宝石みたい。

 ……あれ? この部屋どこかで見たような。

「あ、夢で見た女の子の部屋だ!」

 それに気づいて、思わず大きな声を出してしまった。

「この部屋をいつ見たのですか? 勝手にのぞき見されては気分がよくないですね」

 奥からそんな声がして、声の方を見ると、窓際に女の子が立っていた。

 金色と銀色の長い髪をなびかせて、きれいなドレスを着て、そしてとてもきれいで可愛い上品な女の子。

 ああ間違いない。あの夢で見た子だった。

「私が、このすい星トラウムの星の姫ステラと言います。あなたが夜見星太ですね」

 その声は厳しく、少し堅いものだった。

 ああ、一つだけ夢と違っているところがあった。

 今のこの子は、悲しい顔をしていないんだ。

 これが僕とステラの、現実での最初の出会いだった。

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