第1章\星を越えた転校生
第1話:すい星にせまる危機
……なんだろう、なんだか頭がぼんやりとしてる。
自分がどこにいるのか、何をしているのかよくわからない。
どうやら僕は空を飛んでいるようだ。だって真下に自分の家が見えるから。
屋上にさっきまでのぞいていた望遠鏡があるからわかる。
そう思った次の瞬間、突風に飛ばされるように僕は空に向かって飛んでいく。
家がはるか小さくなり、街も遠くなり、辺りが暗くなったなと思ったら、大きくてまぶしい青い星が見えた。
ああ、あれが僕の住んでいる星かあ、なんてのんびりと考える。
そして、僕はさらに飛ばされていく。
青い星が小さくなっていく。
僕はどこに行くんだろう。ふと、そんなことを考えて、自分の行く方向をみてみた。
そこには薄く光る星があった。光の尾を広げどこかに向かってまっすぐ飛んでいく星。
どうやら僕はあそこに向かっているらしい、となぜかわかった。
吸い込まれるように星の上へ。
星の上には小さな街がひとつだけある。ガラスのボールを半分に切ったような透明なドームに囲まれていた。きれいな街だなって僕は思った。
ガラスのボールを突き抜け街に向かって飛んでいく、真ん中に大きな建物があった。
学校みたいだって、なんとなく思う。
僕が通っている小学校によく似てるから。
学校一番高いところにある部屋の中に、吸い込まれるように飛び込んでいった。
豪華な部屋だなあっていうのが最初の感想。
アニメ映画のお城にあるみたいな家具や、カーテンや、あと複雑な模様のじゅうたん。
誰かの部屋なのかな。どうやら、ここが僕の飛行の終点みたいだ。
大きな部屋の真ん中には、丸いテーブルと椅子があった。
そこに誰か座っている。その人のことをよく見ようと回り込んだ。
ドキッとした。その子から目がはなせない。
そこにすわってたのは、とってもきれいな女の子だった。
年は僕と同じくらいかな。
金色と銀色が混ざったような長い髪で、きれいな目と鼻と口。
ああ、僕の言葉じゃうまく言えなくて、くやしくなるほど。
彼女はフリルの付いたドレスのような服を着て、本当にお姫様みたいな子だった。
なんていうか、そう、星みたいなそんな女の子だったんだ。
ただ、ドキッとしたのは綺麗な子だったからだけじゃ無い。
その子がすごく悲しそうな顔をしていたから。
窓から遠くを見つめて、涙は浮かべていないけれど、泣いているように僕には見えた。
その顔がとてもつらそうで、声をかけようとしたけれど、まったく声は出なかった。
というか、そもそも、僕の姿は彼女に見えていないらしかった。
何をそんなに悲しんでいるんだろう。なんでそんなに辛そうなんだろう。
僕にはまったわからなかった。だって僕が悲しいときは泣いてしまうから。学校の友達だって悲しいときもいたいことがあったときとかも、涙を流すのが悲しいっていうことだってそう思っていた。
涙を流していないのに、こんなに悲しい顔をしている子を知らなかったんだ。
この子を助けてあげたい、僕は心の底からそう思った。
でも、今の僕は何もできない。
声も届かないし、触れることもできない。
それがさみしかった。
どれくらい、そんな光景を見ていただろう。
「……あの子を見てどう思いましたか?」
「え?」
どこからか声がした。落ち着いた優しい声だった。
あわてて周りをキョロキョロと見回したけど、誰もいない。
「あの子をみて彼女を助けてあげたい。そう思って、そう考えてくれましたか?」
もう一度声がした。でもやっぱりどこにも声の主は見えなかった。
一応、女の子の方を見てみたけど、あの子にもこの声は届いていないようだった。
「あの子の名は、ステラ。このすい星トラウムの星の姫なのです」
「星のお姫様……?」
「はい、ここはあなたの住む青い星から、遠く遠く離れたすい星の上にある国。あの子はこの国の姫なのです」
「すい星?! さっきまで僕が見てたあの星のこと?!」
驚いた。なんだか知らないうちに僕は、別の星にきてしまっていたらしい。
ああ、そっか。夢を見てるんだ。きっとすい星を見てるうちに眠っちゃって、こんな変な夢を見てるに違いない。
「いえ、夢ではありますが、ただの夢じゃありません。これはこの星の現実の景色。夜見星太、あなたが私のことを見つけてくれたから、星太の夢を通じて、この景色を見せることができました」
「みつけた……?」
「ええ、私はすい星トラウム。あなたが見ていたすい星の精霊です。トラウムは私の名前であり、すい星の名。私はこの星そのものと言ってもいいでしょう」
「星の精霊……? 星ってしゃべれるの?」
さらにびっくりだ。星がしゃべるなんて。
「ええ、全てのものには心があります。もちろん星にも。でも今はそんなことはどうでもいいのです。星太には力があります。その力を私たちに貸してほしいのです」
「いやいやいや! 僕にそんな力なんてないよ。普通の小学生なんだから」
やっぱり夢だ。きっとこの前読んだ本の話と、今見てるすい星の話がごちゃまぜになってこんなのを見てるに違いない。
「いえ、星太には特別な力があります。それは『みつける』力。星太には特別なものを探し出してみることのできる、そんな能力があるのです」
「『みつける』力?」
「はい、星太はこの広い宇宙からすい星を見つけ、この星の精霊である私とつながることができました」
「来る方向をニュースで知ってて、望遠鏡で見てたからで……」
特別な力でも何でも無い。ただの情報だ。
「いえ、それは、すい星を見るだけではだめなのです。そこにいる精霊の私を『みつける』ことができたから、私はあなたに話しかけられているのです。その特別な力を貸してください。この星を救い、そしてあの子を、ステラを助けてあげてください」
「僕が、あの子を助ける? どういうこと?」
「この星はもうすぐ滅びます」
「ええっ、滅ぶ!? どういうこと!?」
なんかすごい言葉が聞こえてきた。
「何かの原因で、この星は本来の軌道から大きくずれてしまいました。このままでは、すい星はあなたの住む青い星に落ちてしまうでしょう」
「ええええっ!? それってこっちも大変じゃん!」
「その通りです。そしてもちろん、私たちのすい星も、そして星の姫も終わりです」
なんだか、とんでもない大事件に巻き込まれてしまっているような気がする。
でも、僕は少しだけ納得した。
さっきの女の子の悲しそうな表情は、きっとそのせいだったんだ。
星がおちたら、なにもかもなくなっちゃうんだ。そんなの辛いに決まってる。
「っていっても、そんな大変なこと、僕の、その『みつける』力?でどうしろって言うのさ。何を見つければいいの? 僕にできることなんてなにがあるのやら、さっぱりだよ」
「『星の石』を探してください。『星の石』はすい星トラウムに伝わる願いを叶える奇跡の石です。星の姫が『星の石』に願えばあらゆる願いを叶えると言われています。石の力でこの星の落下を防ぐことができるはずです」
なるほど、僕がみつけて、星の姫様が願えば問題解決ってことね。でも……。
「その『星の石』って伝わってるものなんでしょ? なんで見つからないの?」
「それは……」
トラウムがすこし言いにくそうにしている。なにかまずいことでも聞いたかしら。
「いえ、細かいことは後で話させてください。今は一刻を争う。星太、手伝っていただけますか?」
「うーん、そんなこといきなり言われても、なにをどうしたらいいか」
正直困る。だって、星を救うヒーローになって、なんて言われても僕はただの星が好きな小学生なわけで、今だってすい星が見たくて空を見ていただけなんだから……。
「星太は星が好きなのでしょう。これが対価になるかはわかりませんが、受けてもらえるなら、星太を私たちの星トラウムに招待します」
「え!? すい星にいけるの?」
「はい、『星の石』を探すなら、どちらにしても星太にはトラウムに来ていただかなくてはならないので」
「いく! いきたい! それを早く言ってくれないと!」
それなら話は違う。だって、他の星にいけるんだよ? 大きくなって宇宙飛行士が夢の一つだったけど、こんな子供のうちに行けるなんて思っても無かった。
「ははは、さっきもお伝えしたつもりだったんですけどね。でも、頼みを聞いてくれてよかった。星太にはさっそくすい星トラウムにきてもらいます。準備はよろしいですか?」
「もちろん! 今すぐつれてってよ、どうやって星を越えるのさ?」
「星太には星鏡の扉を越えていただきます」
「星鏡の扉……?」
「夢の中で星を越える魔法の扉と考えてください。今、星太は夢を通じてすい星トラウムにアクセスしている。このつながりを使います」
そう言うなり、景色がいきなり自分の家の屋上に変わった。帰ってきたみたいだ。
だけど、どうやらまだ夢から覚めていないようで、体が宙に浮いたまま。
「あれ? うちに戻ってきちゃったけど」
「ええ、これからこの星太の住む青い星と、すい星トラウムをつなげる扉をつくります」
言葉と同時に、目の前が朝焼けのように光り出した。まぶしくて目を細める。
光の中にうっすらと何かが見えてきた。
扉だ。
木で出来た古い扉のように見えるが、七色に光り輝いている。
本当に魔法でできたような扉だった。
「さあ星太。その扉をくぐるのです。そうすればあなたはトラウムに来ることができる」
「う、うん」
僕はゴクリとつばをのんだ。勢いで行くといったものの、さすがに緊張する。
とはいえ、すい星にいくという好奇心には勝てない。絶対に行ってみたい!
僕はおそるおそる取っ手に手を伸ばす。
そして、ゆっくりと扉を開けた。
扉の向こうからまばゆいほどの光があふれだす。
僕は光の中、扉の向こうへとゆっくり足を踏み出した。
さあ、星を越える大冒険の始まりだ!
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