すい星の教室でまた会いましょう

季都英司

プロローグ

ほうき星の夢

 夜の闇の中に、瞬く無数の星。

 雲一つない快晴で、ちょうど月明かりもないこの夜は、僕が待ち望んだイベントにもってこいの日だった。

 街の灯りもこの空までは届かない。遙か彼方の小さな輝きたち。


 今日は数十年に一度のすい星が流れる、そんなニュースが話題になった日の夜。

 天体大好き小学五年生の僕、夜見星太やみせいたは今家の屋上にいた。

 もちろん理由はすい星を見るため。

 そして手には、父さんからもらった、本格的な超高倍率、高解像度の天体望遠鏡。

 星を愛する僕としては、超貴重なすい星が見られるイベントを逃すわけにはいかない。

 夏休み中の今ならどれだけ夜更かししたって、学校に行く必要もない絶好の観測日和。

 世紀の天体イベントに、わくわくが止まらない。

 すい星は小さい天体で、まるで光の尾を引いて見えることから『ほうき星』なんて呼ばれることもある。

 写真で見たことは何度もあるけど、本物はまだ見たことが無かった。

 絶対に見たい。

 そう思って、何日も前から調べていた。

 すい星そのもののこと、見える時間や方角、高さ、その他関係することは何でも。

 準備はバッチリだ。

 長期戦になることを覚悟して、椅子と水筒とお菓子は準備済み。

 あとは、すい星がとんでくるのをじっくりと待つだけ。

 この待ち時間も僕にとっては、楽しみの一つ。

 どんなすてきな姿が見えるのか、どんな輝きを見せてくれるのか。

 望遠鏡を構えて、すい星がやってくると予測された方向をのぞく。

 どれくらい待っただろう。

 ながめる方角に、かすかな光の点が見えた。

 光はゆっくりと、光の尾をひいて夜空を駆けていく。

 すい星だ!

 なんて、綺麗なんだろう。

 星の後ろから、光をスプレーしたように広がっていく光の幕。

 ロケットが飛んでいるようだ。

 夜空を切り裂く剣のようでもあるし、夜空を塗っていく絵筆のようでもある。


 もっと望遠鏡の倍率を上げてじっくり見よう。

 そう思ったとき、レンズの向こうで光が一瞬まぶしいくらい強く輝いたような気がした。すい星に限らず、星の光がそんなに強くなることなんてあまり聞いたことがなかった。

 不思議に思って、僕は望遠鏡から目を外し空を見上げる。

 望遠鏡を通さないすい星の光は、小さくわずかな光だったけど、それでもはっきり僕の目に映った。

 何度も何度も瞬いている。ゆらいでいる。

 いや、違うな。僕のまぶたが重くなってるんだ……。

 ……あれ? なんだか、急に眠くなってきたような。

 まだそんなに遅い時間じゃないし、こんな大事な日に眠くなるような僕じゃないのに。

 そう思った次の瞬間、僕の意識は眠りの中に落ちていた。

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