#3 1日目:ヴィータの覚醒

 フローレンスが放った閃光がヴィータの身体を貫いた直後――。


 強烈な光と周囲の空気を震わせるような轟音が響き渡り、ヴィータは魔力の爆発に飲み込まれた。


 ヴィータがいた周辺の木々は跡形もなくなり、地面は大きく抉れている。


 森の中に突然出来上がった荒地が、フローレンスの魔法の凄まじさを物語っていた。


「……少しやりすぎたかしら?」


 そう呟いたフローレンスは、幼児の姿になっていた。


 しばらく魔力の回復に専念しよう。


 そんなことを考えながら、フローレンスがその場を後にしようとした時だった。


 いまだに晴れない爆煙が突然渦を巻き、フローレンスに襲いかかってきた。


「……⁉︎」


 フローレンスは少し驚きながらも、冷静にそれを避ける。


 渦巻状の爆煙はフローレンスの後ろにあった木々をメキメキと薙ぎ倒し、やがて掻き消えていった。


「あれを耐えるなんて……結構ショックなのだけど……」


 フローレンスは、爆煙が立ち込めていた場所を見据える。


 そこには、壊れたような笑みを浮かべながら大鎌を構えた血塗れのヴィータの姿があった。


「ひはははははっ!」


 ヴィータが笑い声をあげながら、身を沈めた。


 その動きを見たフローレンスは、即座に自分の目の前に魔法の壁を作り出す。


 瞬間、壁に何かが弾かれる音が響き渡る。


 その音の正体は、ヴィータの大鎌が魔法壁に弾かれた音だった。


 一瞬にしてヴィータがフローレンスの懐に入り込み、大鎌を振るっていたのだ。判断が少しでも遅れていたら、フローレンスは真っ二つになっていたかもしれない。


「……お前もいよいよ本気を出したってことかしら。その速さで近づかれるのは少し面倒ね」


 言い放ったフローレンスの姿が、かき消える。


 と同時に、どこからともなく炎や氷、雷などの魔法の弾幕がヴィータに降り注ぐ。


 凄まじい衝撃に怯みはするものの、痛みを感じず、我も失ったヴィータに、魔法攻撃を受けることに対する恐怖は無い。


 皮膚を焼かれ、凍らされ、貫かれながらも、それを全く気にすることもなく、ヴィータは自分を中心に円を描くように大鎌を振るった。


 ヴィータを中心に円状へ衝撃波が広がっていく。


 やがて、その円の一部が何かに阻まれるように不自然に歪んだ。


 ヴィータはその歪みの元に一瞬で駆け寄り、力強く大鎌を振り下ろす。


 確かな手応えを感じ、ヴィータは勝利を確信した。


「幼児化しているとはいえ、ここまで追い詰められるなんてね……この絵面、なかなかエグいと思うのだけど、どうかしら?」


 姿を表したフローレンスの脳天には、ヴィータの鎌がざっくりと刺さっていた。


 しかし、それでもフローレンスは余裕を見せている。


 そんなフローレンスを次こそ真っ二つにして行動不能にしようと、ヴィータが鎌を引き抜こうとした時だった。


 それよりも先に、地面から伸びた大量の土の棘がヴィータの身体を差し貫いた。


「……!」


 ヴィータはもがいてそこから抜け出そうとするが、棘はヴィータをガッチリ捉えて離さない。


「さっきと同じような手が通じるかは少し賭けだったけど、お前が理性を失って頭が回っていないおかげでうまくいったわ」


 フローレンスの笑みが、ヴィータの眼前に迫った。


「これ以上魔法を使うと流石に私もやばそうなのでね。物理でケリをつけさせてもらうわ」


 フローレンスは、両手でヴィータの頭をぎゅっと抑えると、その額に向かって、自分の額を勢いよく激突させた。


 身体中を激しく揺さぶられていると錯覚するような衝撃が、ヴィータの頭を突き抜ける。


 その衝撃で、ヴィータは我に返った。


 私は一体何していたんだっけ?


 土の棘に拘束されてるところまでは覚えているんですけど……って、まだこの状態?


 あれ? 何だか、脳が揺れて意識が遠く……頭でも打ったのかな?


「その様子だと、我に返ったみたいね」


 ヴィータがキョロキョロと周囲を見回しているのに気づいたフローレンスが声をかける。


 我に返ったって、どういう意味ですか?


 そう尋ねようとしたヴィータだったが、遠くなる意識に抗えず、そのまま気を失った。


「……この死神、使えるかもしれないわ」


 棘に貫かれたまま、安らかに意識を失っているヴィータをまじまじと眺め、フローレンスはそんなことを呟くのだった。

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