Day30 色相
倒れた瞳に虹が映っていた。私もつられて視線を空に向けると、大きな虹が架かっていた。
「お前も虹を見ているのか?」
膝を落として声をかける。応えはない、瞳も動かない。開きっぱなしの瞳孔、牙の間からだらりと垂れた赤黒い長い舌。
フーッと溜息をついた瞬間、凄まじい疲労感に襲われた。それはそうだ。私も彼に鎧を強かに抉られて、多少は内臓も傷ついた。剣も盾もボロボロだ。
――何をやっているのだろうな。倒れたまま動かない竜を見つめる。村を襲い、毒の霧を放ち、人々を呪った竜を討ち倒せと依頼され、それを果たした。残ったものは巨大な死体と、くたびれた騎士が一人。
敵意に燃えた瞳も事切れて、水晶のように澄んでいる。死の暗闇に浮かんだ色相は、息を呑むほど美しい。
空は誰のものでもない。きっと程なくして、私も彼と同じ、彼方の虹を見る。
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