Day29 焦がす

 オーブンから取り出して、すぐにわかった。パイのてっぺんが焦げている。

「あーあ」

 少し温度が高すぎたかも。それとも焼き時間が長すぎた? まあ、こういう失敗はあるあるだから、切り替えていこう。

「みんなおいで。おやつの時間だよ」

 鈴を鳴らせば、ワーッと集まってくる黒い獣の群れ。猫、コウモリ、ネズミ……彼らがクルンッと回転すれば、少年少女の姿に早変わり。

「マスター、このパイ僕達が食べていいの?」

「いいよ、好きにお食べ」

「やったー! 最近のマスター、太っ腹!」

「焦げててもおいしい!」

「一言余計だよ」

 育ち盛りの使い魔達の、いいおやつになったようだ。しかし、魔法だけではなく、お菓子作りの方も、まだまだ修行が必要らしい。

 贈るならば、完璧なものを。形美しく味麗しく、一口食べれば胃袋も心も掴むような逸品を。

 魅了するならば、まずは胃袋を掴むべしと云うではないか。この胸を焦がす想いを込めて、努力して――それでももし、届かなかったら。

「マスター、何か悩んでます?」

「いつでも僕らに相談してくださいね!」

「それと、おかわりってあります?」

 ――最終手段は、取りたくないな。ポケットの中に潜ませた薬瓶から、手を離す。

「また作るよ」

 狂おしい恋心のまま、自分自身まで焼き尽くしてしまいたくはないから。

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