Day29 焦がす
オーブンから取り出して、すぐにわかった。パイのてっぺんが焦げている。
「あーあ」
少し温度が高すぎたかも。それとも焼き時間が長すぎた? まあ、こういう失敗はあるあるだから、切り替えていこう。
「みんなおいで。おやつの時間だよ」
鈴を鳴らせば、ワーッと集まってくる黒い獣の群れ。猫、コウモリ、ネズミ……彼らがクルンッと回転すれば、少年少女の姿に早変わり。
「マスター、このパイ僕達が食べていいの?」
「いいよ、好きにお食べ」
「やったー! 最近のマスター、太っ腹!」
「焦げててもおいしい!」
「一言余計だよ」
育ち盛りの使い魔達の、いいおやつになったようだ。しかし、魔法だけではなく、お菓子作りの方も、まだまだ修行が必要らしい。
贈るならば、完璧なものを。形美しく味麗しく、一口食べれば胃袋も心も掴むような逸品を。
魅了するならば、まずは胃袋を掴むべしと云うではないか。この胸を焦がす想いを込めて、努力して――それでももし、届かなかったら。
「マスター、何か悩んでます?」
「いつでも僕らに相談してくださいね!」
「それと、おかわりってあります?」
――最終手段は、取りたくないな。ポケットの中に潜ませた薬瓶から、手を離す。
「また作るよ」
狂おしい恋心のまま、自分自身まで焼き尽くしてしまいたくはないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます