Day26 深夜二時
あれは確か、深夜二時頃だったか。うまく寝付けなくて、ふとベッドから起き上がって窓を見た。閉めそびれたカーテンの隙間から月明かりが差して、その銀色の光に、黒い影が落ちた。
はじめは、コウモリか何かが飛んでいるのだと思った。窓辺からよくよく覗くと、それは満月を背に飛んでいる魔女だった。……魔女、だった。絵本や御伽話に出てくるような、箒に跨った黒いローブ姿の、魔女。
口をあんぐり開けている間に、彼女は夜の向こうへ消えてしまった。
それから月の出る晴れた夜は、毎晩魔女を探すようになった。飛ぶルートはほぼ一定。風の強い日には少し辛そうにしている。荷物は持たず、身一つだ。もしかしたら、ローブの内側に色々な魔法道具を隠しているのかもしれないけれど。
退屈すぎて眠れない日々を過ごしていた僕にとって、魔女の発見は福音だった。夜が楽しみになった。彼女は僕の流れ星、黒く輝く夢の星だった。
今夜は、ようやく届いた双眼鏡でいよいよ彼女の顔を見るんだ。老婆なのだろうか、それとも同い年くらい? どんな顔なのだろう、どんな気持ちで飛んでいるのだろう? 様々な想像を膨らませながら、ワクワクと双眼鏡を覗き込んで――
「君、私のこと見過ぎなのよ」
声は、背後からした。双眼鏡には月しか映っていない。
「蛙に変えてあげようか? それとも、鼠がいい?」
クスクスと、楽しそうに笑う声。僕は振り向くどころか、身動き一つ取れないまま、それこそ蛇に睨まれた蛙のように、震えていることしかできなかった。
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