Day19 トマト
ほら、採れたてだよ。そう声を掛けて、棺の隙間からトマトを差し入れする。
「うむ」
すると返事と共に、死人のように白い手が現れる。トマトを掴む手との、白と赤とのコントラストが鮮烈だ。
人間の血じゃなくてトマトでもいい、って聞いた時は正直笑ったけど、今ならわかる。トマトで良かったと。
ぐじゅ、という水っぽい音と共に、吸血鬼の牙がトマトを噛み締める。赤い汁が顎と喉を伝って落ちる。起き上がったばかりで、まだ寝ぼけているからか、食べ方がちょっと雑だけど。
人間や、動物も、本来これくらい雑に食べていたのだろうか。赤い汁で顎や喉を汚すのは、手慣れた行為なんじゃないのか。猫が蝶をバラバラにしても、素知らぬ顔で毛繕いをするような――そう思うと、ゾクっとした。
「ん……美味いな、これ」
「あ、うん。家庭菜園も悪くないでしょ?」
口を拭う彼の姿を見ながら、小さく笑う。私という大きなトマトも、いつか刈り取られてしまうのだろうか。
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