Day18 蚊取り線香

「ギャッ! ぐるぐる巻き巻き!」

 ぐるぐる……何? と訝しみながら振り向くと、ちょうど妖精が僕の方へ走ってきて、腕を登ってくる最中だった。彼は羽をなくしてしまって飛べない代わりに、身体能力がやたら高い。体の上を移動されると、かなりくすぐったい。

「で、何? ぐるぐるが何とか……」

「それ! それキライ! くちゃいっ!」

 くちゃいって……。見ると、それは母さんが設置した夏の風物詩、蚊取り線香だった。ブタの形をした焼き物から、白い煙が立ち昇っている。

「やっぱり君って虫……?」

「虫じゃあない! でもキライなのっ!」

 キーキーと喚かれても、人間が血を吸われ放題でも困る。仕方がないので、とりあえず蚊取り線香を消して、僕らは蚊帳の中に引っ込む。

「蚊とかさぁ、ボクが結界張って守ったげるから、それでいいじゃん」

「母さんは絶対信じないよ」

 扇風機の音をぼんやりと聞きながら、僕らは並んで畳の上に転がっている。気怠い夏の午後だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る