Day15 岬

 岬へと続く白い道。緑色に光る草地と、紺碧の海とのコントラスト。いかにも美しい写真が撮れそうな場所なのに、周りには殆ど人影もない。

「幽霊が出るんだよ」

 サイクリング仲間の一人がそう言った。冗談めかしてとか、恐々と、という風でもなく、まるで当たり前のように。

 きっとその態度が、あまりにも不自然に感じたからだろう。俺は噂の岬まで自転車を走らせた。玉のような汗を流し、爽やかな風を浴び、眩しい太陽をサングラス越しに見て、そして。

 ソレを見た。

「…………」

 一目見た瞬間、ソレが人ではないことはわかった。美しい黒髪の女、岬の先端に立って海を見つめる細身の女。両手で柵を掴み、今風のサンダルを履いていて、ただの観光客にしか見えない風貌なのに。

 どうして、人ではないとわかってしまったのだろう?

「幽霊が出るんだよ」

 出るんだってよ。噂を聞いたよ。そんな曖昧を挟まない、確定の言葉。つまり、みんな。

 みんな、わかってる。わかったんだ。アレは人ではなくて、でも、ならば、何なのか。それすら分からないものに、せめて『幽霊』という名前をつけた。

 そろりそろりと、車体を回れ右して、静かに遠ざかる。相変わらず風は心地よく、緑と青と白の世界は鮮やかに美しい。

 ただ体だけが、冷え切っていた。

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