Day11 錬金術

 僕のお父さんはどこにいるの。

「まだお仕事をしていらっしゃいますよ」

 いつ帰ってくるの。

「私からは何とも……しかし、お父上は貴方の為に、日夜働いておられるのですよ」

 そう。と、呟いて会話が終わる。物心ついた頃から、僕の世界はこの屋敷の中だけだった。生活にはなんの不自由もない。召使達がなんでもやってくれるから……彼らが僕と違う生物であることには、薄々気づき始めていた。体に大きな縫い目があったり、体の奥から歯車の音がしたり……。

 僕は何者なのだろう。つるんとした自分の体を鏡で見ながら考える。不安からか、好奇心からか、孤独故か。僕は夜中、屋敷の窓から外へ飛び出した。

 鬱蒼と茂る黒い森を走り抜ける。息が切れる程走るのも、枝葉に肌を切られるのも初めてだ。興奮しながらも、しかしいつまでも果てなく続く闇に心が折れそうになっていた。

 その時、ぐらりと地面が揺れた。倒れ込んで空を見上げる。円型の暗い空に、知らない男の巨大な顔が浮かんだ。

「いけないなぁ。お前はまだ外には出られないのだから」

 含み笑いと共に、男が空を叩く。カツン、という小さな音がした。

 ――ここはフラスコの中。僕の為に創られた世界――僕という人造人間の全て。

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