Day07 ラブレター

 返事の来ない手紙を出し続けることに疲れてしまいました。そう言って彼女は悲しげに笑った。

「いつか気づいてくれれば良いって、気長に待って」

 水滴がついたクリームソーダのグラスを手に、ストローでぐるぐる掻き混ぜて。

「待てるだけでも幸せなんだと、自分に言い聞かせていたけれど」

 色はどんどん濁っていく。

「もう、そろそろ諦めようかなって」

 僕は困惑する。彼女に告白されたのは二ヶ月前。彼女はすごく良い子だし、僕としても清い付き合いをしてきた筈だ。何が間違っていたのだろう。

「何も間違ってはいませんよ」

 心を読んだかの様に、彼女は言う。

「でも、貴方は ██ さんじゃないでしょう?」

 聞き覚えのない名前を呟く彼女に、何か声を掛けようとした。その唇に、最後の口付けが落ちた。

「さようなら」

 また次の世界で。彼女は紙幣を一枚置いて、立ち上がった。扉が開き、夏の光が喫茶店内を眩く照らす。去り行く彼女の背中に、大きな翼のような影が見えたが、扉が閉まると共に、それも消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る