Day06 呼吸
我が友は眠っている。血を啜る種族である我は、彼が眠る時間に起きる。
かつて夜とは闇に鎖された暗黒の世界であり、我ら化物の独壇場でもあった。しかしどうだろう。今となっては眩い電灯が闇を散らし、我らは『不審者』と呼ばれるまでに堕ちた。
「血? あーいいよ、たまになら。献血みたいなもんだね。自宅警備員してくれてるし、たまにはお駄賃あげなきゃね」
我が友はかなり前向き、悪く言えば多少浅慮なようで、吸血という唾棄すべき習性もあっさりと受け入れた。実際、痛みにさえ注意すれば、実に気軽に体を預けてくる始末。
「我が怖くないのか」
一度そう問うた。友は熱心に戯画本を読み耽ったまま、うーんと唸った。
「別に。お喋りできるし、いい奴だし。同居人としては悪くないと思ってるよ?」
友は知らぬ。我は夜の種族。今すぐにでも本性を表し、お前を八つ裂きにしてやってもいいんだ。お前が我に聞かせる音楽盤を血で染め上げ、お前が不器用に作る夕食の皿に、お前の首を乗せてもいいんだ。久しき肉の味は、我の喉をどれほど甘美に潤すだろうか。
しかし、そんな未来は、微塵も見えない。
子供のように安らいで眠る、我が友よ。お前の小さな呼吸は、何故我の魂を、こうも掴んで離さないのか。
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