Day03 飛ぶ

 あの子は妖精のくせして飛べない。羽を失くしてしまったのだという。

「見てて!」

 彼は庭で拾ってきたトンボの羽を二枚手に持ち、高らかに宣言する。畳の上で漫画を読んでいた僕は、ため息混じりに掌を差し出す。

「とうっっ!!」

 ちゃぶ台の縁から飛び降り、当然の自由落下。驚く程軽い体が、掌の上に落ちてくる。

「あーっ、もう! また失敗だぁ!」

 掌の上に収まってしまう程に小さな、僕の友人。すぐに怒ってよく笑う気分屋。キラキラしたトンボの羽を、何とか背中に付けようと苦心している。

「いい加減諦めればいいのに」

「えっ?」

 子供のような目を丸くして、彼は首を傾げる。

「心配してるの? 大丈夫! いつか絶対飛べるから!!」

 そしたらショータにもボクの勇姿を見せてあげるよ! ……そう胸を張る姿はこんなにも小さいのに、どうしてキラキラして見えるのだろう。諦める、という気持ち自体を知らない彼の眩しさは、たまに僕をひどく戸惑わせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る