第4話 えっと、ストーカーしてないよね?
あの強すぎるカンナと別れて、俺は一人の旅を再開した。
その夜、俺は焚き火の前で身を横たえ、疲れた体を休めようとしていた。と、その時だ。
――ガサガサッ!
どこからか、何かが茂みをかき分ける音が聞こえた。嫌な予感がする。旅をしていれば、魔物との遭遇は避けられない。
俺は焚き火の明かりを背に、音の方に目を凝らした。
「魔物か……?」
茂みの影から姿を現したのは、やっぱり魔物だった。しかも、かなりの大きさだ。
俺は腰に手を伸ばし、いつでも戦闘態勢に入れるよう準備を整えた。
「くそっ、またかよ……」
俺は立ち上がり、魔物に向かって走り出そうとしたが、その瞬間、目の前の魔物が突然消え去った。
「……え?」
俺が剣を抜く間もなく、魔物の姿は跡形もなく消えていた。何が起こったのか分からず、その場に立ち尽くす。
「どうなってんだ……?」
気を取り直し、再び焚き火の前に戻るが、しばらくしてまた別の魔物が現れた。
流石にソロでの野営はかなり危険が伴うな。しかし、その魔物も俺が剣を抜く前に何かが影のように横切り、またしても消え去った。
「えっ? なんだこれ……」
そんな奇妙な現象が、夜通し続いた。
何度魔物が現れても、その度に謎の影が通り過ぎて魔物が消えてしまう。俺はすっかり戦う気力を失い、ただ不安に苛まれたまま野営を終えた。
翌日、俺は目的地の街に辿り着いた。寝不足ですぐに宿屋に向かいたい。
だけど、街の入口近くの広場で少し休憩しようとベンチに腰掛けた。
「やっと街に着いたか……あの野営地で何が起きてたんだ? とりあえず疲れた」
頭の中で昨夜の出来事を反芻しながら、街の喧騒に耳を傾けて呆然としてしまう。
「サイトさん!」
ふぃに、名前を呼ばれて、聞き覚えのある声が響き渡った。
「えっ? まさか……」
ゆっくりと振り返ると、そこにはカンナがにっこりと笑顔を浮かべて立っていた。
辺境の辺境の村で分かれたはずのカンナ。彼女は笑顔で俺を送り出してくれた。
そのはずなのに、どうしてこの街にいるんだ?
「カンナ……どうしてここに?」
彼女はにこにこと無邪気な笑顔を見せながら、まるで当然のことのように言った。
「私も冒険者なので、いろんな街を旅しようと思ったんです。同じ街に来るなんて偶然ですね! サイトさんに会えるなんて嬉しいです! よかったらまた一緒に冒険をしましょう」
俺は内心で冷や汗をかいた。
偶然、だと? この広い世界で、こんな偶然があるのか? それに、昨夜の野営地で起こったことを考えれば、これは偶然じゃない気がする……。
「そ、そうか……それは偶然だな……」
表面上は笑顔を保ちつつ、俺は背中に冷たい汗が流れているのを感じた。
ニコニコと笑顔で、俺を見上げる仕草は紛れもなく美少女で、どこかあざとさすらも感じてしまう。
「なんて、ふふふ、ごめんなさい。偶然じゃないんです。実はサイトさんを守りたいって思ってついてきちゃいました」
「えっ?」
「だから、昨夜も魔物をたくさん狩って、眠いです」
「そっ、そうか。それは助かったよ……」
俺の後をつけてきた? 今の彼女なら、魔物をあっという間に倒してしまうだろう。そして、その行動が全部俺のためだったとしたら……?
俺はあの野営地で起こった不気味な現象の正体が彼女だと理解した。
どうにかこの場をやり過ごそうと考えた。
「カンナ、ありがとう。君がいてくれると本当に助かったよ……」
「はい! 私、サイトさんはきっと大いなる使命を持った方だと思っているんです」
「大いなる使命?」
「そうです。私のような困った人たちを救う旅をされているんですよね? 私はそのお手伝いをしたいんです。ですから、身も心もサイトさんに捧げさせてください」
「えええええ!!! そんなことしてません」
「ふふふ、わかっています。公には言えないんですよね。ですから、私もこっそりとお手伝いをします!」
彼女の笑顔を前にして、俺は再び逃げ出したい衝動に駆られていた。
だけど、それすらも悪手に思えてきた。
「えっと、とりあえず、俺が旅をする手伝いとして魔物を狩ってくれるってことかな?」
「そうです! サイトさんが求めるなら夜の護衛をベッドの上でしてもいいですよ」
夜の護衛って魔物を狩ることだよな。
ベッドの上でってなんだ!?
「はは、その時はお願いするよ」
「嬉しいです!」
「えっと、次に目指すのは、辺境にある精霊の教会に行こうと思うんだけど、一緒にくる?」
「はい! 喜んで! 次はどんな人を助けてあげるんですか?」
「あははは」
うん。美少女と旅をするだけだよね。
何も怖くない! 怖くないはずだ!
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