第32話

厄介事に葉山さんを巻き込むわけにもいかずに、体を支えると彼が少しずつでも自力で歩いてくれたお陰で何とか家まで連れてくることができた。



隙間風の入る畳4畳の空間に彼を横たわらせると部屋の殆ど埋まってしまった。



食事は起きてからにして、せめて清潔にしてあげようと服を脱がせるとあるものが目に留まる。






『‥‥これは』




右肩辺りにある〝F〟の刻印。



これは恐らく、〝被験者〟である証だ。



年齢は18前後。

私とさほど年齢差はないように見える。



手足は異常なくらいに細く、少し力を加えただけで簡単に折れてしまいそうだ。



今まで最低限生きていられるだけの食事しか与えられていなかったのだろうか。



噂には聞いていた。



能力者となってしまった者の顛末を。



洗脳を受け死ぬまで戦いの武器として戦場に駆り出されるか或いは、能具の糧として幽閉され死ぬまで血を抜かれ続けるか。



恐らく、彼の場合は後者だろう。



人間に対する怯えた方を見るに、とても人を殺したことがあるようには見えない。



そして、不自然なほどに彼の体には傷一つなかった。



発見した時は雨に濡れていた上に泥を被っていたから、傷だらけなように見えただけだろうか。



着ていた服はあちこちが破れて血が染み付いていたのに、それだけが釈然としなかった。

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