第20話

「元々、個人の依頼に切り替えようと考えていたところだったから。あの親子は、ただのきっかけに過ぎない」


「へぇ、今更どうして?」


「‥‥」


「それならいつも通り、主の資金源だの会合だの密輸だのを妨害していた方が、よほど合理的だと思うけど」


「‥‥確かめたいことがあるから」


「それは、僕の知識では教えられないことなのかい?」


「‥‥」


「まあ、いいだろう。対価さえ支払ってくれるのなら口は出さないでおくよ」


「‥‥」


「ところで、一つ質問なんだけど」


「‥‥」


「もしかして、僕が助太刀に入る前に君が対峙していた何者かに顔を見られたりしていないよね?」


「‥‥」


「或いは、その相手の顔を見たりした?」


「お互いにフードを被っていたから」


「そうだよね。軽く小競り合いしたくらいで、顔なんて見える距離じゃなかったよね」


「‥‥いつから」


「ん?なに?」


「いいえ、何でもない」




〝いつか見ていたのか〟と尋ねたところで、ヨルは話を逸らすだけな気がした。



それでも、問いの内容から察することが出来たことはある。



ーー恐らく、私が対峙したあの男は何らかの、有力者だろう。







「君は賢明だね。良くも悪くも」




ヨルが何をどこまで知ってるかは分からないが、どうやら遠回しに口止めをされているように思える。



私が顔を見られたことも、あの男の顔を見たことも、本来ならあってはならないことで、決して他言してはならないと、ヨルの三日月型に細められた黄色の瞳が物語っているようだった。

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