第10話
薄暗い路地裏に降り立つと、その一角にひっそりと建っている建物に入った。
暗闇に包まれる室内を、男は電気も付けずにスタスタと進んでいる。
足を止めると、慣れた様子で地下室へと続く扉の施錠を外した。
そこには小さな部屋があり、無機質なベットが一つだけ置いてある。
「はい、いつもの」
ベットに寝かせると、男はいつものように錠剤を渡した。
「治療は‥‥まあ、君には必要ないか。もう傷口は塞がってるみたいだし」
「‥‥」
「一応着替えは置いておくよ。君の好きにするといい。それじゃあ、おやすみジャンヌちゃん」
返答を聞くことなく男は部屋を出て行った。
その際に、ガチャリと施錠を掛ける音がするが気に留めたりはしない。
わざわざ用意してくれたからと、血で濡れた服を着替えようとするが、薬を飲んだ直後に強烈にやってくる睡魔に抗えなかった。
うつらうつらとしながら、首から下げた十字架のネックレスを握りしめた。
こうして休息を取るのはいつ以来だろう。
ただただ無我夢中に奴らを相手に剣を振るってーー。
血の匂いが今も鼻に残っている。
肉を切る感触が消えない。
命乞いする声、劈くような悲鳴が耳から離れない。
『魔法をかけてあげるよ。〝夢を見ない〟魔法を』
‥‥今だけは。
この瞬間だけは、何もかもを忘れてひと時の休息を。
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