第7話
◇
その日、男は非番だった。
非番とはいっても、常に戦闘態勢に入れるよう準備している。
だからといって、こうして運悪く奴らと出くわしてしまえば流石に嫌気も差すものだ。
不幸中の幸いなのは、奴らの相手をしているのが男とは関係のない第三勢力であること。
大剣だけで大勢の敵を凌駕していることから噂に聞くジャンヌダルクのようだ。
介入する理由もなく傍観していると、最後の一人を仕留め損ねたジャンヌダルクが攻撃を受け、よりにもよって目の前に落下してくる。
見過ごすつもりだった。
今ここで死なれたからといって組織としては何の不利益もない。
寧ろ、得体の知れない、敵でも味方でもない輩が消える好機であった。
死にゆく瀬戸際だというのに、雨粒に濡れた葉から雫が零れ落ちるような無抵抗ぶりに眉を顰める。
地面に叩き付けられたその瞬間、ただの肉塊と成り果てるというのに生に執着が無いのか。
幾度なく死の瞬間を目の当たりにしてきた男からすれば、目の前で人一人死のうがどうでもいいことだった。
同情する余地もなく、道を塞ぐのであれば亡骸を踏み潰してでも通る気だった。
ーーしかし。
強風によりフードが外れ、隠された素顔が明らかになる。
髪がはらりと宙を舞う。
腰まで伸びた、月光を浴びて光り輝く銀色の髪は息を呑むほどに美しい。
一瞬だけ覗いた瞳は黄金色で、輝きに相反し酷く虚ろだった。
大人びていながらも僅かに幼さを残した顔からは血の気が引いており、病的なまでに青白い。
化け物と比喩されるほどの力を持っている者の正体が、こんな華奢な少女だと誰が予想できただろう。
男は反射的に両手を広げて、少女を受け止めていた。
そして、その少女の異常さに息を呑む。
その体は、あまりに細く、軽かった。
しんしんと降り積もる雪のように、触れれば簡単に溶けてしまいそうなほどに脆い。
今にでも事切れそうで、微かに繰り返す呼吸がなければ死んでいるのかと疑うほどに、恐ろしく儚いものだったーー。
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