第6話




どれくらいの時間が経っただろう。



逃した少女が、松葉杖を付いた母親に泣きながら抱きつく姿を一目見ると、より遠くへと敵を引きつけるために駆け抜けたジャンヌダルクからは疲労の色が窺える。



何十という数の敵を倒しても、未だ減る様子はない。



元から目をつけられていたのだろう。こちらを誘い出す為に敢えて人目に付くところで少女を連行していたに違いない。



無理もない。



ここ最近、奴らを相手に手を出し過ぎた。



衝撃や風で外れないようにと固定しているフードを今一度深く被り直す。



あの親子を逃がす為にもここで引くという選択肢は存在しない。



荒い息を吐きながら、繰り返される銃撃に耐えながら反撃していく。



目に付く最後の一人を倒せば、ようやく銃声が止んだ。そして、一瞬だけ息をついた瞬間だった。



突如、体に衝撃が走ると安定感を失ったことで足を踏み外し、無抵抗な体がビルの屋上から急落下していく。







ーー迂闊だった。



いつもなら絶対にしないような失態だ。



敵を討ち漏らした挙句に、他者からの殺気を感知できないなど。



交わす暇もなく数カ所撃ち抜かれると、フードを固定しているつなぎ目が解けてしまった。



やがて落下しながらも気配を探り、対象を冷静かつ明確に体に仕込んだ小型ナイフを放って仕留めると衝撃に備えて目を瞑った。



そこに恐怖という感情はない。










ーーただ、受け入れるだけだ。

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