第5話
『待っている』
「え‥‥」
『あなたの、母親が』
耳を、疑った。
「‥‥お、お母さんっ。お母さんは、無事なの?」
尋ねた声は震えていた。
『命に別状はない。でも、右目は治らない』
「治らないって‥‥」
『失明している』
頭を殴られたような衝撃に、少女は言葉を失った。
『骨が何本か折れている。そんな体で、あなたを助けるために走り回っていた』
ーー自分は、なんて馬鹿なことを。
他人を助けようなんてエゴに取り憑かれ、自分の力量すら理解していなかった。
泣く資格なんてないと分かっていながらも、溢れ出した涙は止まることなく、声を上げて泣いていた。
『‥‥大切なものがあるのなら』
いつの間にか警戒心すら忘れ、機械音の中で見え隠れするその人の本来の声に安心感すら覚えていた。
『あなた〝は〟まだやり直せる』
意味深げな物言いをすると足を止め、ビルの屋上の倉庫の裏へと身を潜めた。
耳を
『階段を降りたら、出口から真っ直ぐに走って』
「あなたはっ‥‥」
『敵を引きつける。あなたは、自分の身を守ることだけ考えて』
「でもっ」
『大丈夫、逃げられる。敵の狙いは私。あなたに割く人員は作らせない』
落ち着かせるように頭を撫でると、少女の返答も聞かずに隣のビルへと飛び立った。
やがてジャンヌダルクを追い銃声も一緒に遠ざかっていった。
僅かな間だけこのまま逃げてもいいのかと罪悪感が芽生えるが、もう二度と同じ過ちは繰り返さないと心に決め、言われた通りにビルの階段を駆け下りた。
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