第28話.池

 スライム池に辿り着いた。

 スライム池がどこにあるのかの詳細は聞いてなかったので、探すのに数時間かかった。


「名の通りだね」


 池の中にスライムがみっしりと詰まっていた。


「クエストの名の通り、スライムを一匹倒せばいいんだよね?」

「この池のスライムを全て倒さないといけないんだよ」


 全てのスライム?

 そんなことクエストには書かれてなかったぞ。


「一匹でいいんじゃない?」

「クエストの下の方に小さく『池にいるスライムを全て撃破すると成功』って書かれていたよ」


 騙された……

 スライムを一匹撃破すれば成功だと思っていた。


 確かに、巨大な敵を撃破せよというクエストの中に、モンスター界で最弱であろうスライムを、一匹だけ撃破するクエストはあり得ないと思うが……

 でも、それなら大きく書いてくれよ!


「クエスト諦めない?」

「このクエストを受けるって決心したんでしょ。なら、成功するまでは諦めないよ」


 決心はしたけど、思っていたクエストと異なったんだ。

 そして、成功も無理だぞ。


 池の中には何匹のスライムがいるか分からない。

 一生クエストが終わらない可能性だってある。


「諦めようよ」

「諦めないよ」

「お願い、諦めて」

「無理」


 こんな無理難題クエストを成功される気なのか……

 俺だけ帰っていいかな?


――――


 リリースに何度も説得しようとしたが、受け入れてくれなかった。

 なので、俺はこのクエストを成功させることにした。

 ……何日かかるんだろう。


「ごめん。私吐き気がしてきた」

「え?」


 吐き気だと……

 もしや、スライム恐怖症か?

 俺も恐怖症になりかけてるぞ。


「ごめん。限界きた」

 リリースはキラキラを出した。


 限界まで早いな。


「体調悪いなら木陰で休んでたらいいよ」

「ごめん」

 リリースはすぐ近くの木の下に行った。


「スライム恐怖症になったの?」

「なにそれ?」

「スライムを長時間見たら体調が悪くなるやつだよ」


 スライム恐怖症の症状は、セウスが酒を飲みながら言っていたぞ。

 

 酒を飲んでる際、リリースもいたぞ。

 でも、ベロベロに酔っていたか。

 酔っていたら話なんか聞けるわけがない。


「多分、二日酔いだと思うけどな……」

「二日酔い?」

「昨日酒を飲んだんだよ」


 酒を……なら二日酔いだな。

 普通に二日酔いで気分が悪くて吐いただけか。


「朝から気分良くなかったの?」

「うん。酒を飲んだら絶対に二日酔いになる」

「でも、ホテルに泊まった次の日は普通だったんじゃない?」

「サトルと離れた後、大量に吐いたよ」


 二日酔いするほど酒を飲むんじゃない。と言いたいが、どうしても酒は進んじゃうもんね……


「吐き気がしてきた。あ、限界きた」

 リリースはキラキラを吐いた。


 キラキラを吐くほど飲むんじゃない。とは言った方がよいかもしれない。

 リリースはまだ15歳だし。


――――


 夕方になったが、スライムは減る気配がしない。

 俺とスライムからの距離は遠いため、スライムからは攻撃されることはない。が、数は一向に減らない。


「どう?」

 リリースは元気よく俺のところに来た。


 二日酔いは治ったようだ。


「全然だよ」

「この調子でいけば何年もかかるよ」

「そっか。なら、後何年か頑張ろうね」


 今すぐこのクエストを破棄したいです。


「今日はお金無いし、草原で寝るしかないか」

「草原で寝なくて済む方法があるよ。私についてきて」


 草原で眠らなくて済む方法! それは頼もしいですね。


「ここだよ」

 木造二階建ての家に辿り着いた。


「ここは?」

「セウスの家だよ」


 セウスの家に泊まるのが、草原で眠らずに済む方法か。

 最高な方法を思いついたな。


「今日はここで寝るの?」

「そうだよ。ついてきて」

 セウスの家に入った。


「あ、おかえり」

「ただいま!」

 家に入ると、セウスがいた。


「今日はサトルも来たよ」

「おっ、ついに10日のホテル生活が終わったのか。生活は楽しかったか?」

「全く楽しくなかったよ」


 遅刻ペナルティにしてはキツすぎた。


「今日も酒飲みたい!」

「分かったよ」


 酒なら俺も……って、今日も?

 リリースは二日酔いになってたよな?

 二日酔いになった日も酒を飲むのか?


「酒飲むの?」

「飲むよ」

「二日酔いなのに?」

「治ったしいいでしょ」


 今日はやめておくべきだ。


「今日はやめておこう」

「飲みたいの!」

「今日はやめよう」

「いやだ! 飲みたい!」

「はい、酒だよ」

 リリースは酒に飛び込び、一気に飲み始めた。


「リリースっていつからこの家に来てるの?」

「初めて出会って次の日からだよ」

「そのときから酒を提供してるの?」

「うん」


 リリースはアルコール中毒になったようだ。

 治すのが大変そうだな。

 やはり、年齢制限がないとしても、15歳に飲ませるのはいけなかったようだ。

 

 前世の年齢を合わせたら三十路?

 まぁ、体自体の年齢は15歳だから。

 精神年齢は三十路だろう。


「酒を飲ませるのはやめた方が

「酒は娯楽だぞ! 娯楽をやめろというのか!」


 異世界での数少ない娯楽だとは思うが……

 二十歳になるまではやめさせよう。


 お前も二十歳以下だって?

 俺は例外だよ。

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