第26話.部屋

 そういえば、明日の朝食を何にするか言い忘れていた。


 朝食付きだが、前日までに何を食べるのかを言わなければ食べれない。

 言う相手は……多分、受付のおばあさんだろう。


 おばあさんと話すのは少々怖いので、リリースに話してもらおう。

 ということで、リリースの部屋に突撃だ!


 ……待てよ。

 リリースの部屋に入ったら追放……

 いや、それは豪邸の話だ。

 ここはホテル。リリースの部屋に突撃しても追放されないはずだ。

 一番の安全策は朝食の存在を忘れて、このままベッドで眠ること。

 でも……この六日間ろくにご飯を食べていないため、腹が減ってるんだ!

 朝食くらい食いたい!


 リリースの部屋へ突撃だ! 

 ……確か、リリースは隣の部屋だったはず。



 リリースの部屋の前に着いた。

 俺は勢いよく扉を開けた。


「リリースちょっとお願

 扉を開けると、敷布団の上に全裸のリリースがいた。

 俺の方を向いた瞬間、リリースは体を隠すようにバサッと布団を丸めた。


 リリースは着替え中だったそうだ。

 お願いは後でしよう。


「後でお願いを

「ち、違うよ!」

 リリースは焦るような行動を見せた。


「違うって?」

「いや、ち、違うってこと!」


 分かんないぞ。

 とりあえず、部屋から出るべきらしいな。


「着替え中にごめん。出てくね」

「着替えじゃないよ! あ……」

 リリースは呆然とした表情を見せた。


 着替えじゃないだと?


「何をしてたの?」

「な、ナニはしてないよ!」


 何を言ってるの?


「どういうこと?」

「い、いや……ナニをしようとしたんだよ」


 俺は全く理解できていない。


「で、でも少しだから。ほんの少しだから」

「そうなんだ」

「引かないで!」


 全く引いてないのですが。

 いつもとテンションが変だが、その程度では引かないよ。


「異世界って娯楽がないでしょ? だからやることがないでしょ?」

「まぁ、ゲームとかないからね」

「だから仕方がないの」


 ごめん。仕方がないって何の話?


「そんな困惑した表情しないでよ……」


 何の話をしているのか全く理解できないのだから、困惑した表情は出るだろう。

 仕方がないよ。


「だって、好きな人のことを思い出したらやっちゃうもん。

 本当はハグやキス、最終的には一緒にやりたいと思ったりして。でも、もう会えないからさ……仕方ないじゃん。

 辛さをここにぶつけるしかないんだよ」


 好きな人とハグやキスをしたいことは分かった。

 で、何の話?


「何話してるの?」

「え?」

「ごめん。最初から理解ができてない」

「あ……」

 リリースは呆然とした表情をした。


「なら、この話は聞かなかったことにして」

「それは無理だよ。もう聞いちゃってるんだから」

「聞かなかったことにして!」

 リリースは俺の背中を押し、部屋から追い出した。


 ……まぁ、聞かなかったことにしとくか。

 その前に、この話は明日には忘れてそうだけどな。


 眠ろう。



 ……眠れない。

 今日は目一杯眠らないといけないぞ。

 ホテルに泊まれる日は滅多にないんだ。


 眠れ、眠れ、眠れ!


「はぁ、はぁ」

 リリースの方から荒れた声が聞こえる。

 もしや、熱か?


 今回は突撃するか。

 でも、さっきまで熱はなさそうだったよな。

 急に発熱? そんなことがあるのだろうか……


「いいや、今日は我慢だ!」


 ここのホテル、声が筒抜けだね。

「リリースのパンツを見たい!」

 と言ったら、隣に聞こえそうだ。


 静かにしておこう。

 ……パンツは見たいぞ。


――――


 眩しい光が当たる。

 もう昼か。

 俺は何十時間、眠っていたのだろうか。


 俺は立ち上がると、リリースがいることを確認できた。


「何でいるの?」

「とっくにチェックアウト時間を過ぎてるから」


 朝がチェックアウトだったのか……


「その前に朝食を食べたい」

「朝食? 朝食はホテルに出てからでしょ」


 ……あ、朝食について報告するのを忘れてたな。

 やっちまったよ。


「ちょっと支度するから待ってて」

 俺はゆっくりと布団を畳んだ。


「受付の人がブチギレてるから急いだ方がいいよ」


 おぼあさんブチギレか……

 この部屋は窓があるし、そこから脱出していいかな?



 受付に着いた。


「彼女さん、昨日はできたかな?」

「昨日は我慢しました」

「彼氏さんがやる気だったのに我慢しちゃったんだ」

「だから、勘違いしないでください」

 俺はリリースの後ろを影のように歩く。


 どうかバレないでくれ。


「おい、彼氏」


 バレちゃいました。


「ど、どうしましたか?」

「お前は何時間遅れたと思ってるんだ?」

「さ、三時間くらいだと思います」

「ちげぇよ! 24時間だよ!」


 そしたら、俺は一日半眠ってたことになるぞ。

 それはあり得ないぞ。


「24は盛り過ぎかと……」

「なんか文句があるのか?」

「ないです」


 盛っているとしても、チェックアウト時間を過ぎているのは事実だからな……


「とりあえず、銀貨10枚払え」

「なぜ10枚ですか?」

「遅れやがったから」


 そういうことですか……

 でも、一枚しか持ってないんですよね……


「そんなに持ってません」

「なら、ここで10日働け」

「は、はい。分かりました」


 10日か……仕方がないか。


「何をすればいいのでしょうか?」

「私の仕事の代わりをしろ」

「代わりとは?」

「受付、食事作り、全部屋掃除、お風呂掃除だ。

 ちなみに、部屋は50ある。もちろん毎日だからな」


 ハードだな……


「じゃ、よろしく」

 おばあさんはホテルから出ていった。


 おばあさんは仕事を休みたかったんだな。


「リリース手伝って

「そういえば、私予定があったな」


 俺を見捨てないでくれ!

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