第25話.ホテル

「見つからないね」


 周りが暗くなり始めた。


 あの後、俺とリリースは存分に酒を飲んだ。

 そして、セウスと離れた。

 一応、セウスの住所は聞いたので、また会うことはできる。


 今はホテルを探している。が、全く見つからない。


「今日は草原で寝る?」

「いや、今日くらいはホテルで寝たいよ」


 6日間も草原で眠ったんだ。

 今日はホテルで眠りたい。


「私もホテルで寝たい気分になってきたよ」

 

 意見一致だな。

 どうか、ホテルさんは現れてください。

 

 

「ホテルだよ!」

 ホテルが現れた。


 少々ボロい感じだ。


「心配だけど泊まろう」

「分かった」


 心配なのは、銀貨一枚で泊まれるかどうかだ。


 

 ホテルに入った。


「いらっしゃい」

 受付にはおばあさんがいた。


 内装は古い伝統のあるホテルのような感じだ。


「あの、銀貨一枚で泊まれますか?」

「泊まれるわよ」


 心配な部分が解消した。

 気持ちよくホテルに泊まれるぜ!


「二部屋取れますか?」

 リリースが俺とおばあさんの会話に入ってきた。


「銀貨一枚じゃ無理だね」

「……そうですか」

 リリースは暗い表情をした。


「私、草原で寝るね」

「え?」


 なぜ?

 さっき、ホテルで眠りたいと言っていたよな?


「ホテルて寝るんじゃないの?」

「今、草原で寝たい気分なんだよね」


 草原で眠りたい気分か……

 どうしたら草原で眠りたい気分に変化するんだ?


「ホテルで寝ようよ」

「いや、私は草原で寝る」

「あらあら、彼女さんは恥ずかしがってるのね。

 恥ずかしがる必要は全くないわよ。彼氏さんはやる気満々なんだから」

「そんな意味じゃないですよ! 勘違いしないでください!」

 リリースは頬を赤らめた。


 ……どういうことだ?

 というか、リリースは彼女ではないし、俺も彼氏ではないぞ。


「俺は彼氏じゃありません」

「あらあら、彼氏さんも恥ずかし始めたじゃないの。

 彼女さん、一緒に泊まらないと」

「だから、そういう意味ではないです!」


 俺の知らない世界で話が進んでいるようだな。

 俺も理解できるように話してくれ。

 

「おばあさん、ちょっといいですか」

 リリースはおばさんの耳元に行った。


「一人でなんですよ」

 リリースは囁いた。

 

「え? 何って言った?」

 おぼあさんは聞き返した。


「一人でなんですよって言ったんですよ」

 リリースは囁いた。


「え? 小声だから聞こえないのよ」

「一人でなんですよ!」

 リリースは大声を出した。


「恥ずかしがらなくていいわよ。彼氏さんと一緒にするべきなのよ」

「だから! 勘違いしないで!」


 ……なんでおばあさんはしつこく彼氏呼びするんだ?

 彼氏ではないって言ったよな?


「ほらほら、彼氏さんが戸惑ってるじゃないの」

「俺は彼氏じゃないんですが」

「……めんどくせぇな」

 おばあさんは囁いた。


 俺、二度しか指摘してないんですけど。

 それで面倒くさいは酷くないですかね……


「ほら、彼氏さんが駄々こね始めたから早くしなさいよ」

「別に駄々こねてないんですけど」

「お前に話しかけているのではない。だから黙っとけ」


 初対面の相手にこんなこと言われるなんて、俺はおばあさんに何かしたかな……


 もう、俺だけ先に部屋に行っておこうかな。

  

「あの、先にお部屋に行っても

「黙れ!」


 酷すぎるよ……


――――


 先に部屋に入った。

 外見はオンボロだったが、部屋は普通だった。


 部屋には敷布団と枕とタオルがある。

 タオルは温泉用だな。


 このホテルは朝食付きらしい。

 そして、露天風呂もあるらしい。

 まさか異世界で露天風呂に入れるとは思っていなかった。

 

 露天風呂という存在を知ったので行くしかないよね。



「気持ちいい!」

 俺は露天風呂に入浴した。


 足をお湯につけただけで、全身の疲れが飛んだように感じる。

 やはり、露天風呂はすごい。

 

 露天風呂から見える景色もすごい。

 露天風呂の先にあるのは湖。

 湖の近くでは、ホテルに泊まれなかった人が付けたらしき火が灯っている。


 湖と火が一体となった瞬間、最高な景色が広がる。

 山の頂上まで登った際に見る景色と同じくらい最高だ。


 俺が六日間もかけて町に来たのは、この景色を見るためだったのか……

 いや、違うぞ。

 神と会いに行くために、その道中としてこの町に来たんだ。


 ……のぼせてきたので、上がろう。



 部屋に戻ってきた。

 すると、リリースの姿を確認できた。


「結局、ホテルで泊まることにしたんだね」

「うん。もう一部屋確保できたからね」


 もう一部屋?


「どうやって確保したんだ? お金は銀貨一枚しかないだろ?」

「粘り強く交渉したら、『銀貨一枚で二部屋やるよ』って言ってくれたんだ」


 すごいな。

 俺が粘り強く交渉したら、股間を蹴られてたかもしれない。


「一部屋取れたらなら、なんで俺の部屋にいるんだ?」

「報告するためだよ。

 もう報告したし帰るね」

 リリースは部屋から出ていった。


 明日からも神と出会うためのハードな生活が続くだろう。

 ホテルに泊まれる日を大切にしなければならない。

 ということで、今すぐ寝るぞ!

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