第二章

第21話.町

 町が見えてきた。

 六日の冒険に終止符を打つ。

 嬉しくて、涙が出てきたそうだぜ!


「ついに、ついに……」

 リリースは涙が溢れ出ていた。


 隣に本気泣きしている人がいました。

 そんな人がいるのにネタで泣こうとしてしまい、申し訳ございませんでした。

 ……誰に向かって謝罪をしているのだろう。


「ついに着いたね」

「そうだね!」

 リリースは喜ぶように言った。


 ……さっき泣いてたよな?


「もう涙は引っ込んだんだ」

「うん。感動的で泣こうと思ったけど、あまり涙が溢れなかった」


 感動的なドラマで涙が溢れそうなのになぜか出ない、と同様の感じか。


「この町では何をするの?」

「……何する?」


 決めてないんかい。



 町に辿り着いた。

 木造建築が並んでいる。

 町には四角形の建物もあれば、三角形の建物もある。

 家によって独創的だ。


 

 女性とすれ違うたびに、女性が睨むような目つきで見てくるのは気のせいだろうか。

 ……いや、気のせいではない。

 俺がイケメンだから、睨むような目つきをするほど興味があるのだろう。

 フッ、俺は異世界ではモテモテだぜ。

 でも、俺には桜という幼馴染がいるから、告白されても断るぜ。


 俺の目の前に四人の女性が現れた。

 俺に告白してきたらしいな。

 告白を断るのは心苦しいが、桜がいるため仕方がない。


「ごめんな。俺には他の女がいるから

「「変態は出ていけ!」」

 女性は一斉に俺の体を叩き始めた。

 一人は俺の頭を叩き、一人は俺の腕を叩き、一人は俺の足を蹴った。

 そして、もう一人は俺の股間を蹴り上げた。


 なんで俺の体を叩くんだ……全裸だからか。

 変態は出ていけ! とはそういう意味か。

 

 というか、股間を蹴り上げるときの威力だけ異常だ。

 ……股間だけは蹴り上げないでくれ。


 股間に痛みが染み渡る。

 股間が無くなりそうだ。

 ……痛すぎるよ!


「リリース、助けて」

「四対一は無理かな」


 リリースが巨大スライムに飲み込まれたとき、俺は助けようとしたじゃないか。

 結局、俺も飲み込まるという結果だったが。

 でも、助けようとする意思はあってもいいじゃないか。


「あ、あの、そろそろ限界なんです

「「変態は黙っとけ!」」


 俺は全裸になりたかったわけではないんだよ。

 これには理由があるんだ。

 だから、叩かないでくれ!



 女性四人は退散した。

 まだ股間は痛いが、一応苦痛から解放された。


 とりあえず、この町にいるには衣服が必要なようだ。

 ……当然の話ではあるが。


「衣服を買ってきてくれない?」

「分かった」

「俺は近くの草原で隠れてるから」

 リリースは衣服屋へと向かった。

 俺は草原せ向かう。


 全裸の俺が衣服屋に行くことはできないので、仕方ないがリリースに頼んだ。

 


 草原に着いた。

 草原はのどかでいいな。

 町は衣服を着ないと入れないよ。まぁ、当然の話だが。


「サトル!」

 リリースが帰ってきた。

 リリースの手には……何もない。


「衣服は?」

「お金無かったから買えなかった」


 そっか。お金が必要なのか。

 豪邸ではお金は必要なかったため、忘れていた。


「最低でもパンツは欲しいな……」


 パンツさえ履いていれば、叩かれることはないはず。

 俺から避けるような行動はあるかもしれないが。


「パンツが見つかったら、私が履くよ」

「なんでだよ」

「だってスースーするもん」

「俺だってスースーするよ」

「さっき叩かれたし、スースーしないんじゃない?」


 確かに、スースーしないような……って、スースーはどうでもいいんだよ!

 パンツを履いていなかったから叩かれる可能性があるし、普通に恥ずかしいんだよ!


「スースーはしないよ。でも、パンツは探さないと」

「パンツを探すなんて無理でしょ」


 ……俺は良い案が思いついた。


「路地裏、的な場所に行ってみない?」

「なんで?」

「表で高く売られているものが、路地裏では安く買える可能性があるんだよ」


 この裏路地安い理論は、アニメから得た知識だ。


「でも、一銭もお金は無いよ」

「路地裏の細部まで確認したら、少々のお金は見つかるんじゃない? そしてそのお金を使って、パンツを買うの」

「でも、この町は路地裏が無さそうな雰囲気だったけど……」


 路地裏以前の話だった。


 路地裏が無いなら……全裸でいるしかないか。

 いや、まだ他の方法がある。


「裕福な人に衣服を恵んでもらうのはどうかな?」

「それなら、路地裏が必要ないね」


 裕福な人なら、こんな全裸男にも衣服を買ってくれるはず。

 ということで、裕福な人に話しかけよう!



 貴族のような服を着た人を見つけた。

 あの人に話しかけよう。と、思ったが足が動かない。


「リリース、話しかけるのお願い」

「いや、サトルのことなんだし、サトルが行くべきだよ」


 それはそうだが……


「コミュ障だから無理なんだよ……」

「コミュ障? なら、改善していこうよ!」


 コミュ障を改善するのはちょっと……


「今回はお願いします」

「無理」


 ……俺が行くしかないのか。

 嫌だよ! 嫌だよ!

 

 いや、待て。俺は転生してすぐのとき、リリースに話しかけたよな。

 なら、あの人にも話しかけれるはずだ。

 よし、頑張ろう。


「行ってくる」

「頑張れ」


 俺は力を入れながら、一歩一歩、歩いた。

 そして、貴族らしき人のところに着いた。


「あの!」

 貴族らしき人は振り向いた。


「お、俺のために衣服を買ってくれませんか」

 貴族らしき人は睨むように俺を見た。


「赤の他人ですが、お願いします」

「ごめんけど、無理」


 俺の脳に無理という単語が何度も再生された。


「でも、その恰好面白いね。笑いが止まらないよ」

 貴族らしき人は笑った。


「本当に面白いから、その恰好で生きていくべきだよ。俺が衣服を恵む必要はないよ」


 ……面白いのなら、衣服の代わりにお金を恵んでください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る