第20話.好きな人
そこら辺に落ちていた木屑を拾って、焚き火を作った。
周りは既に暗くなっていた。
「15年ぶりの火だよ」
15年か……
すごい生活だな。
「15年も火がない生活なんか考えられないよ」
「最初は苦しかったけど、案外慣れるもんだよ」
慣れは怖いな。
焚き火の音が鳴る。
「手伝ってくれてありがとね」
「言うの早くない?」
「そうかな」
「そうだよ。感謝は終わってからじゃないと」
「……分かったよ」
焚き火があるおかげで、気持ちが高まる。
「豪邸に来てくれてありがとね」
「それは俺が感謝することだよ」
「でも、感謝したかったから」
俺に衣食住を提供して感謝したい?
俺に感謝することなんて一つもないぞ。
「サトルが来たおかげで、豪邸で最後の思い出ができたよ」
最後?
「もう豪邸には帰らないの?」
「帰らない可能性もあるよ」
「帰らない可能性って?」
「パパが『豪邸ではない場所に住む!』と言い出したらだよ」
リリースはパパのことが好きなんだね。
「サトルが来たおかげで、四年間の一人の生活が報われたと感じたよ」
……四年間?
「四年間一人なら、ママは?」
「……ママは幼いときに出てていったの。
パパとママで言い争いがあってさ……」
パパもいなくて、ママもいない。
もちろん周りの人もいないので、四年間、完全に一人での生活だったのか。
「よく四年間も耐えれたね。俺なら一人での生活は耐えれないよ」
「私も今考えたら、よく耐えれたなって思うよ」
四年間、一人での生活をすることはないもんな。
「……私さ、よく前世のことを思い出すもんね」
そうか。俺と一緒だな。
「私友達、いや、好きな人がいたんだよね」
そうか。俺には幼馴染がいたよ。
「私はその好きな人と付き合うのが夢なんだよね」
そうか。俺は幼馴染と熱く燃え盛るキスをするのが夢だ……じゃないよ。
俺の夢は幼馴染の夢を叶えることだぞ。
夢を変えるな。
「まぁ、前世のことだから叶わない夢だけどね」
俺の夢も……いや、叶えられる。
異世界でも絶対に叶えられる。
でも、肝心の桜の夢が分からないんだよな……
「前世に戻りたいなって思うな」
俺も戻りたい。
こんなお風呂が冷たい世界で過ごしたくない……ではないぞ。
前世の方が夢を叶えやすいから、前世に戻りたいんだ。
「でも、前世に戻ったらパパと会えなくなるよ?」
「好きな人とパパだったら、好きな人と会いたいな」
そんなに好きだったのか。
「……俺にも好きな人がいたな」
「そうなんだ」
「うん。幼馴染でとても美人」
「私より美人なの?」
「互角かな」
何で桜とリリースを比較しないといけないんだよ。
もちろん、俺は桜の方が美人と思う。
でも、この場では互角と言う。
本当は、
「リリースの方が美人!」
と言うべきだろうが、それは俺の桜への想いに反する。
仕方なく、互角と言った。
本当は、
「桜はリリースの100倍美人!」
と言いたいところだ。
「そんなに幼馴染が好きなんだね。私の好きな人への想いと互角かもね」
「いや、俺は幼馴染のことが本当に好き。
リリースの好きな人への想いの100倍、想いがある」
「いやいや、私の方が」
「俺の方が」
これ、一生
「俺だ!」
「私だ!」
と続くやつだな。
俺が屈せば終わる?
俺の桜への想いはその程度じゃないんだよ!
「私はその好きな人と何度も勉強会をしたよ!」
「俺だって好きな幼馴染と何度も勉強会をしたよ!」
「私は勉強会で好きな人に私のパンツを持って帰らせたから!」
「俺だって勉強会で好きな幼馴染のパンツを持ち帰ったぞ!」
また、桜のパンツを持ち帰りたい。
「私は好きな人と一緒に、お風呂に入ったことあるから!」
「俺だって好きな幼馴染と入ったことがあるぞ!」
桜とのお風呂は一生忘れられない。
着替える際に見れたパンツ。これは一生、目に焼き付いている。
その日はサクラの模様がついたパンツではなく、紅葉の模様がついたパンツだったな。
「私はそのときに、好きな人の体をガン見したんだから!」
「俺だってそのときに、好きな幼馴染の体を見たぞ!」
まぁ、体よりパンツの方が見ている時間が長かったが。
「私は好きな人にキスをしたんだから!」
「俺だって好きな幼馴染とキスしたんだから……」
「暗い顔になってるから、したことないでしょ。なら、私の勝ちだね」
負けてしまった。
……そうだ、キス経験者なら質問してみよう。
桜とキスをする際に参考にしよう。
「キスってどんな感じだったの?」
「興奮が止まらなくて、最高だったよ」
「具体的に」
「まぁ、好きな人が寝ているときに、唇を付けて……思い出すだけで興奮しちゃう!」
寝ているとき?
「それって、相手はキスに同意してないってことだよね?」
「一応、そうだね」
「そんなキスでいいの?」
「私はいいの」
やっぱり、リリースの好きな人への想いより、俺の幼馴染への想いの方が深いな。
……なんでリリースと俺は違う好きな人への想いを比較しているんだろう。
こういうのは、好きな人が同じ人同士で比較することだ。
まぁ、これで俺の桜への想いがより一層高まったし、よいか。
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