第16話.冒険の前
「はい、朝食だよ」
「ありがとう」
普段通り食事を摂っていると、ふと疑問が浮かんだ。
「農地で育ててるって言ってたけど、リリースが育ててるの?」
「もちろん」
この豪邸にリリースと俺しかいない時点で、野菜を育てているのはリリースと断定できる。
なぜ、今まで気づかなかったのだろう……
「俺も育てるの手伝いたいな」
「いいよ」
農地での手伝い。
楽しそうだ。
――――
「ここが農地だよ」
ナスとにんじんとスイカが並んでいる。
色彩豊かだ。
「何をしたらいいのかな?」
「とりあえず、収穫してみたら?」
収穫か。
収穫が一番楽しそうだもんな。
俺はにんじんを引っこ抜いた。
「これをどうするの?」
「このバケツに入れて洗うよ」
俺はバケツの中を見た。
茶色の液体が入っている。
「これ何?」
「水だよ」
茶色の液体が水?
嘘だろ。
「どう見ても水じゃないけど」
「茶色く濁った水だよ」
そうか……何で水を変えない?
「水は変えないの?」
「水は貴重な資材だから」
池まで三時間だもんね……
「この水はいつから変えてないの?」
「多分、三年前」
「新しい水にしましょう」
池から三時間だとしても、さすがに使いすぎだ。
――――
五日に一回のお風呂!
最高! 最高!
……お風呂に入りたくない。
入らなければ良い話じゃん、と思うかもしれない。が、慣れというものは恐ろしい。
俺は七日間、お風呂に入らなかった。が、ものすごい罪悪感が襲ってきた。
戦闘で例えれば、ドラゴンに襲われたのかと思うほどだった。
なので、仕方なくお風呂に入っている。
お風呂が破壊されれば、罪悪感無しでお風呂に入らずに済む。
誰かこの豪邸のお風呂を破壊してくれ。
俺は我慢して超冷たい風呂に浸かった。
すると、お風呂の扉が勢いよく開いた。
いつも通り、リリースが覗きに来た。
「お風呂の水は超冷た
リリースは頬を赤らめ、扉を閉めた。
俺は覗きに慣れてしまった。
慣れてはいけないのだろうが……仕方がない。
「あぁ!」
脱衣所で転げ落ちるような音がした。
リリースが転げ落ちたのだろう。
俺は湯船から飛び出し、勢いよくお風呂の扉を開けた。
「大丈夫?」
「大丈夫」
大丈夫と言っているが、リリースは立てそうにない。
「立てるの?」
「立てる」
「本当に?」
「三時間後には立てる」
立てないようだ。
仕方がない。俺が運ぼう。
俺はリリースを背負った。
そして、リリースの部屋へ向かった。
リリースの部屋の前に辿り着いた。
……リリースの部屋に入っていいのか?
部屋に入ったら追放……
いや、一ヶ月半も居住してるわけだし、入っても……
ダメだ。追放される可能性は残っている。
パパの部屋に連れ込もう。
いかがわしい意味ではないぞ。
リリースを、パパの部屋のベッドに横たえた。
……パパの部屋に連れ込む必要がなかったような気がする。
熱ならまだしも、怪我だよな。
なら、リビングに連れ込めばよかったよな。
まぁ、どちらでも結局同じか。
「どこを打った?」
「腰とお尻を打った」
なら、腰とお尻の確認を……ダメだな。
俺が確認をしていいのはパンツだけだ。
ということでパンツを……ということもダメだ。
弱っている女の子に危害を加えるのは、この世で三番目にやってはいけない。
……パンツ見たいな。
「異世界に怪我を治す薬はあるの?」
「無いよ」
なら、どうしようもないか……
まぁ、怪我なら自然に治るか。
「三時間後に動ける?」
「五時間後かも」
とりあえず、明日には動けるらしいな。
今日はパパの部屋で眠らせよう。
俺はリリースの部屋で……ダメだぞ。
床で眠ろう。
――――
俺に眩い光が降り注いだ。
昼のようだ。
昨日の俺は、農業で疲れていたらしい。
俺は立ち上がり、部屋から出たら、リリースがいた。
「今日、冒険に出ようと思う」
「え?」
一ヶ月と言ったのは二日前だぞ。
「何で急に?」
「もしかしたら冒険中にパパが帰ってくるかも、と思ったんだよね。
もし帰ってきたら、私がいないと思って再び出ていくかもしれない。不安で、一ヶ月様子見しようと思った。けど、意味があるのかなって……」
もし帰ってきて出ていったとしても、神にお願いして無理矢理、豪邸に連れ戻せばよいもんな。
一ヶ月、様子見する必要はない。
「とりあえず、今日冒険に出るということだね」
「うん」
想定外だったが、早い方が良い。
ということで、最終準備をしよう。
……俺、準備することなかったな。
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