第14話.リビング

 一ヶ月の異世界語を勉強する期間が終了した。

 ……脳が破壊しそうだ。


 一日四時間睡眠。

 睡眠不足にも程がある。


 今日からは、前世の言語を使用するのが禁止らしい。

 リリースも前世の言語を封印するらしい。

 これからは異世界語で聞いて、話さなければならない。

 少々、不安だ。


「おはよう」

「おはよう」


 よし、異世界語で言えた。 


「なら、私の言葉を一言一句間違えように言ってね」

「うん」


 どんな難題がやってくるのやら……


「生麦、生米、生卵」

「生麦、生米、生卵」

「生米、生卵、生麦」

「生米、生卵、生麦」

「肩揉め、肩叩け、肩鳴らせ」

「肩揉め、肩叩け、肩鳴らせ」


 俺は何を言っているんだ?


「合格だね」

「最後の肩のやつは何?」

「パパが言ってたやつ」


 異世界パパ、謎の言葉を娘に教えないでくれ。


「もう異世界で生きれるね」

「そうだね」


 これで追放されても問題なし。

 ということで、リリースの部屋を覗きに……って、そうじゃないだろう。

 俺が追放されて生き抜けない理由は衣食住を用意できたからだよ。

 異世界語を使用できるようになっても、豪邸にいなければならない。


――――


「そういえば、右側の後ろ二つの部屋は何なの?」

「あ、そういえば教えてなかったね。図書室の隣の部屋がリビング。リビングの隣の部屋が物置部屋だよ」

「そうなんだ」

「リビングでも紹介してあげようか」

「ありがとう」


 豪邸のリビングか……すごそうだ。


――――


 リビングの扉を開けた。

 ものすごい空間が広がっている。


 リビングの中央には、王様が座るような椅子が二台ある。

 その後ろには巨大な鏡がある。

 上を見上げると、シャンデリアが三灯並んでいる。

 壁も上半分が金色で、下半分が赤色である。


 完全に豪邸だな。


「さすが豪邸だね」

「そうだね」



 俺は巨大な鏡の前に立った。

 光沢のある茶髪の短髪で、俺の衣服を着ているやつがいる。

 ……これ、俺?


「鏡に映っているのは俺?」

「そうだよ」


 イケメン度は変化なしだが、見た目が違う。

 転生したから姿が変化したのか。

 前世の俺は黒髪の短髪だった。


 まぁ、イケメン度が同じなので気にしないが。


「転生後の俺もイケメンだね」

「普通だと思うんだけど……」


 俺は平凡なモブじゃない!


 

 俺は鏡から離れた。

 リビングの細部を確認すると、紙に描かれた二つの絵を発見した。

 俺はその絵に近づき見てみた。


「あ、それは私が描いた絵だよ」


 片方の絵は、クールな雰囲気を醸し出した黒髪男性の絵だった。

 もう片方は、おじさんという覇気を存分に醸し出した茶髪男性の絵だった。

 黒髪男性の絵は上手いが、茶髪男性の絵は少し下手だった。


「これって誰の絵なの?」

「茶髪の方はパパ。黒髪の方は前世の友達だよ」

「どっちも上手いね」

「そうかな」

 リリースは笑みを浮かべた。


 正直、パパの方は下手だ。が、そんなことを言う必要はない。


「パパの方は五歳のときに描いたの」


 五歳のときか……なら、十分というほど上手いな。


「黒髪の方は?」

「最近かな」

「そうなんだ」


 五歳から10年の時を経て、とても上達したな。


「リリースは絵を描くのが好きなの?」

「そうだよ」


 絵を描けるなんてすごい。


「父に見せたらどんな反応をするの?」

「嬉しそうな反応をするよ。でも、もうその反応は見れない……」

 リリースは暗い表情をした。


「見れない?」

「あ、下手だから見せられないってことだよ」

「五歳のときよりもう〜んと上手くなってるじゃん」

「でも見せたくないなと思って」


 前にリリースは、

「パパとママは一ヶ月後に帰ってくるかな」

 と言った。が、一ヶ月半が経った今日も、まだ帰ってきていない。

 もしかしたら、冒険途中で怪我を負ってしまい、豪邸に帰る日が先延ばしになった。という可能性もあるが、リリースの表情を見ると、きっと何かあると感じる。


「パパがどうしたの?」

「どうしたって?」

「パパの冒険って嘘じゃないかなって」

「え、嘘じゃないよ」

「嘘でしょ」

 俺は念を押した。


「……部分的には嘘かな」


 やはり、何かあったんだな。


「どうしたの?」

「……パパは四年前に出ていったの」

 リリースは紙切れを出した。


 紙切れには、俺は夢を掴んでくる、と書いてあった。


「これだけ渡されたの?」

「渡されたというよりかは、目が覚めてダイニングに行ったら紙切れが一枚だけ置いてあったの」

「なら、紙切れ一枚置いて出ていったということ?」

「そうだね……」


 異世界パパは中々に酷いやつだな。

 ……いや、でも裏に何かあるのかもしれない。

 アニメでは、悪役に様々な理由があり、本当はしたくないが主人公を襲う。ということは多々ある。

 異世界パパは悪役ではないが……

 ま、まぁ、可能性はあるわけだから、妄想してもいいよな。


「……パパのこと言っちゃったし、もう言おうかな」

 リリースはボソッと言った。


 何を言うんだ?


「私、冒険者になりたい」

「……え?」


 パパが四年前に出ていった話から、冒険者の話?

 ……どういうこと?

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