第8話.幼馴染・前編

 パパの部屋に行くと、外は薄暗くなっていた。

 薄暗い程度なので階段はなんとか登れたが、これが完全に暗かったら登れないだろう。

 お風呂に入るのが遅くなった日は一階で眠るしかない。


 今日は疲れたので寝ようと思う。


「おやすみ、リリース」

 俺は小声で言い、眠りについた。



 ………………眠れない。

 多分、前世は深夜に寝ていたため、

「こんな早い時間に寝れねぇよ!」

 と脳が言っているのだろう。


 ごちゃごちゃ言わずに寝てほしいが。


 まぁ、眠れないのでゲームでもしよ……って、異世界だからゲームがないんだよ!

 どうしよう。これから苦しい夜が始まる。


 この部屋にはベッド以外無い。

 ……無理ゲーだ。

 異世界は勉強道具すら無い世界。

 異世界で生きていくのは無理だよ!

 誰か前世に戻してくれ。と思っても無駄なので、無理矢理眠ろう。


 眠れ、眠れ。


「はぁ、はぁ」


 眠るんだ、眠るんだ。


「はぁ、はぁ」


 眠れ、眠れ、眠れ!


「はぁ、はぁ」


 隣から微かに荒れた息の音が聞こえる。

 荒れた息……もしかして、熱を出して苦しんでいる?

 それなら今すぐに……とは思うが、条件を破ったら豪邸から追放される可能性がある。

 悩みどころだが、今回は様子を見るか。

 次、息を荒らしていたら、リリースの部屋に突撃しよう。


 ということで眠ろう。



 ………………眠れない。

 なんだか、桜のことを思い出してしまう。

 中三の始業式の日。

 アイスは肉に合うか論争をしていたとき……思い出すな。

 桜はどこかにいる。大丈夫、大丈夫。


 アイスは肉に合うか論争中……桜の夢を思い出そう。


 桜の夢はら大学に行き……どうしたいんだ?

 桜から、

「山楽(さんらく)大学に行きたい!」

 とは中一のときから散々聞いていたが、それ以上のことは聞いていない。


 桜の夢が山楽大学に行く、だけで終わるとは思えないしな……よし、桜の人生を振り返り、夢を探し出そう。

 ちなみに、山楽大学は『山が楽しい大学』と書いてるが海の側にある大学だ。

 よくあるパターンだな。


 桜は18年前の12月27日に誕生した。

 俺より数十日早かったな。

 ちなみに、俺と桜が誕生した病院は同じだったそうだ。

 この時点で運命的な出会いだったと悟られる。


 俺は三歳のときに幼稚園に入園した。

 

 俺は入園してから五歳になるまで友達を作れなかった。

 そんな俺は休み時間、トイレに隠れていた。

 トイレに隠れていたのは、トイレが落ち着ける場所だったからだ。

 トイレ以外に落ち着ける場所はあったはずだが、なぜだかトイレに隠れていた。

 お漏らし対策でもしてたのだろう。


 五歳のときのある日、俺は運動場の端で隠れていた。

 運動場に隠れてたのは、トイレに隠れるのが飽きていたからだろう。

 休み時間、永遠にトイレという名の箱に居座るのは無理だったのだろう。

 休み時間は二時間もあったからな。


 俺が運動場の端で丸まっていたら、俺に近づいてきた女子がいた。

 

 一瞬で目を奪う綺麗な瞳。

 サラサラでサクラの香りがする髪。

 黒髪のボブヘアー。

 前髪をサクラのヘアピンでとめている、超可愛い女子だった。

 これが、桜との最初の出会いだった。

 桜とサクラの香りとサクラのヘアピン、というトリプルパンチは最高の融合だった。

 

 そして時は流れ、今は結婚し、幸せな新婚生活を迎えています。

 うん、最高だ……じゃないよ。

 俺の妄想が飛び込んできたな。


 話を戻そう。


 桜は、

「そんなところで何をしてるの? もしかして、友達いない?」

 と聞いてきた。

 

 俺は、

「うん」

 と答えると、

「それってボッチっていうやつだ!」

 と笑いながら言った。

 これが俺と桜の最初の会話だった。


 実に酷い会話だな。

 今、ボッチという単語を言われたら、カッチンコッチンプッチンプリン、と言いながら苛立つだろう。

 だが、当時の俺はボッチという単語は知らなかったため、桜と一緒に笑っていた。

 

 俺は今でも疑問に思う。

 なぜボッチという単語を知っていたんだ?

 五歳だよね? お化けを信じるほど純粋な年齢だよね?

 もしかして、ネットでプリ○ュアを見ようとしたら、コミュ障が異世界転生する深夜アニメでも流れてきたのか?


 その出会いの後、桜と一緒に数週間ほど遊んだが、いつの間にか俺はトイレ生活に戻っていた。

 なぜ戻っていたのだろう。

 まぁ、俺のコミュ能力が皆無だったからだと思う。


 それから何ヶ月か経ち、卒園式を迎えた。

 俺は卒園式が終わった後、桜に告白をした。

 その告白に桜は頷き、それから数十年後、俺と桜は結婚しました……妄想が膨らんでいるな。


 このときの俺は桜に好意を抱いていなかった。なので告白はしていない。が、俺と桜のツーショット写真は撮った。

 ツーショット写真が撮れたのは、俺の親と桜の親が仲良かったからだ。

 

 俺と桜が同じ病院で誕生したということは、もちろん、俺の親と桜の親も同じ病院にいた。

 俺と桜の誕生する予定日が近かったということもあり、親同士が仲良くなった。

 そしえ、卒園式の際もその関係が続いており、どちらの親も、

「二人で写真撮らせようや!」

 と言って撮ることになった。


 このときに俺と桜が同じ病院で誕生したことを知ったな。


 それから付き合い始める……ということはなかった。

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