第7話.豪邸
「あの部屋が汚い部屋?」
「そうだよ」
俺は廊下の正面から見て、一番手前の右側にあるドアを開いた。
ドアを開いた瞬間、大量の本が雪崩のように降りかかった。
なぜ雪崩のような状況が起こる?
読み終わった本をそこら辺にポイッ、と投げ捨てても雪崩はできないぞ。
「すごい状況だけど」
「パパが片付けをするのが下手だったからこうなったの」
まさかのパパのせいか。
おい、リリースのパパ。今すぐ俺のところに来い。
俺が片付ける方法を教えてやるぞ。と、偉い口をしているが、俺でもこの雪崩は片付けられない気がする。
「一人じゃ片付けられないよね」
「私の場合は扉すら開かなかったから」
「怪力なのに?」
「あれは本気を出しただけ」
ここでも本気を出せよ。
というか、一度も扉を開けたことがないのに部屋が汚いことを知っていたのか。
「扉が開かないだけで汚いと気づくなんてすごいね」
「窓から部屋を見渡したら汚かっただけだよ」
窓があるのか。
きっと、リリースのパパも窓から入ってたんだのだろう。
扉を開けたら大惨事になると知ってただろうし。
こうなる前に片付けるべきだったが……片付けが苦手なら仕方がないか。
「片付けの際は、まず手袋とマスクを用意しよう」
手袋とマスクを用意するのは片付けの鉄則だ。
「異世界に手袋もマスクも無いよ」
手袋とマスクが無いだと……察してはいたが、無いと言われると心が痛むな。
とりあえず、素手で片付けろということか。
変な物が出現しないことを望む。
「なら、片付けようか」
「分かった」
――――
俺たちは懸命に片付けをした。
しかし、片付けは全く終わらない。
「もう夕暮れだから、今日はやめた方がいいよ」
「分かった」
雪崩を掻いても掻いても雪崩が起きる。
これ、部屋の中に無限に本があるわけじゃないよな?
さすがに有限だよな?
「この後は暗くなる前にお風呂に入り、寝るよ」
「お風呂はどこにあるの?」
「一番奥の右側の扉を開いたら脱衣所だよ」
「その先にお風呂が?」
「そうだよ」
お風呂で今日一日の疲れを流そう。
……お風呂の水は濁った水。ま、まぁ、目を瞑れば泥水も普通の水になる。大丈夫、大丈夫。
「俺の寝床はどこなの?」
「パパの部屋は……ダメ!」
そりゃ、パパの部屋は父が使用しているのだから、俺は使用できないだろう。
「そういえば、両親はいつ帰ってくるの?」
「い、一ヶ月後かな」
夜に帰ってくる! じゃなくて、一ヶ月も帰ってこないのか。
……異世界だし、両親が冒険者なのかもしれない。
冒険者なら長期間、家を空けるからな。
「両親が冒険者なの」
「そ、そうだよ!」
「なら、俺はどこで寝たらいいかな?」
「……廊下かな」
廊下か。
無償で泊まらせてもらってるとしても、さすがに酷いよ。
「父がいない間は、俺がパパの部屋を使ったらダメなの?」
「それはダメ」
「何でダメなの?」
「それは……」
リリースは曇った顔をした。
何か理由がありそうだな。
「分かった。パパの部屋を使っていいよ。でも、一つ条件がある」
「条件って?」
「私の部屋に絶対に入らないこと」
もしや、俺がパパの部屋を使用したらリリースの部屋を覗くと思ったから、最初はダメと言ったのか。
でも、俺が可哀想に見えてきたから、仕方なく俺に許可を出したのか。
優しいな。
そんな優しさも分かるが、入ったらダメと言われたら入りたくなるんだよ。
リリースの部屋に入って、パンツをチラリと……おっと、妄想が膨らんでいるぞ。
もし条件を破ったら、豪邸から追放される可能性がある。
追放をされたら、俺はこの世界を生き抜けない。
なので、条件は守ることにする。
「分かった。絶対に守るよ」
「信じてるからね」
リリースは真剣な眼差しで俺を見た。
少々プレッシャーを感じるな……
「パパの部屋はどこなの?」
「私の隣の部屋だよ」
「リリースの部屋も知らないんだけど」
「あ、そうだったね。なら、私についてきて」
俺はリリースについて行った。
「この扉を開くと階段があるから、まずはここを登ってね」
廊下を正面から見て、一番奥の左の扉に階段があるのか。
というか、扉は左右それぞれ三枚あるのか。
階段を登ると二階に辿り着いた。
「右の部屋が私の部屋で、左の部屋がパパの部屋だよ」
「なら、左の部屋を使えばいいんだね」
「そうだよ」
「なら、入るね」
「分かった」
俺はパパの部屋の扉を開いた。
右端にベッドがポツンと置かれている。
それ以外は何もない。
寂しい部屋だ。
「ベッドしかないけど」
「冒険でベッド以外のものを持っていったんじゃないかな」
ベッド以外持っていくとは、中々の心配性だな。
「部屋の様子も分かったから、お風呂に入るね」
「分かった」
俺はお風呂へ向かおうとしたが、止まった。
「俺、衣服一着しか持ってないけど、この衣服を使い回さないといけないかな?」
俺は現在、着用している衣服のみしか衣服を持っていない。
「そうだね」
そうか。さすがに衣服を提供はしないよね。
仕方ないが使い回そう。
お風呂に辿り着いた。
俺は衣服を脱いでお風呂場に入ろうと思ったら、微かに声と走る音が聞こえた。
「お風呂の水は冷
リリースは脱衣所の扉を勢いよく開けた。
「あ……」
リリースは顔を赤め、脱衣所の扉を勢いよく閉めた。
リリースは覗きに来たのか?
俺がイケメンだから、体も筋肉モリモリの最高な姿だと思ったのか……残念ながら、体型は普通なんだよな。
俺はお風呂場に入り、目を瞑りながら足を湯船につけた。
「冷た!」
俺は足を湯船から離した。
湯船のお湯が超冷たい。
そんなことを感じていたら、また微かに声と走る音が聞こえた。
「お風呂の水、めっちゃ冷
リリースがお風呂場の扉を勢いよく開けた。
「あ……」
リリースは顔を赤め、お風呂場の扉を勢いよく閉めた。
どれだけ覗きたいんだよ。
まぁ、覗きは気にする必要がないか。
それより、この超冷たい湯船にどう浸かるか考えなければ……
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