第6話.豪邸の廊下
「家だよ」
目の前に建っているのは、異世界アニメでよく見る建物だった。
豪邸というものだな。
「なんで草原のど真ん中に豪邸が建ってるの?」
「何でだろうね」
居住している本人も知らないのか。
「親が建てたの?」
「多分、そうかな」
豪邸の扉を開けた。
扉は三メートルの長さがある。
この扉なら高身長の人も頭をぶつける心配がない。
豪邸は見た目だけでなく、中も豪華だった。
豪邸に入ったら上がり框があり、左右に10段ほどの靴箱。
上がり框の先にはレッドカーペットがひかれていた。
レッドカーペットがひかれているのは廊下だろう。
この廊下は奥行きはもちろん、横幅も長い。
横幅は……大体10メートルあるだろう。
この長さならドラゴンでも入れそうだ。
入る前に、豪邸ごと焼き尽くしそうだが。
「上がっていいよ」
リリースは俺の背中を押した。
「まだ靴を脱いでないよ」
「靴は脱ぐ必要ないよ」
海外では靴を脱ぐ必要はない、的なものか。
転生者だとしても、異世界の文化を大事にしないといけない。
ということで、靴は脱がないが……レッドカーペットを汚すのは少々、勇気がいる。
「ちょっと待って。レッドカーペットを汚されるのは嫌だから、靴脱いで」
「分かった」
異世界の文化より、レッドカーペットを綺麗に使用することの方が大事だよな。
「いや、やっぱり履いていい」
「履いていいの? 履かなくていいの?」
「う〜ん、どっちも」
異世界の文化を尊重しながらレッドカーペットを汚すな、ということか。
どう考えても無理だよ。
「どっちかにして」
「それは無理かな」
リリースが妥協してくれないとどうしようもないのだが。
真逆のことを同時にやる……片足は靴を履き、片足は靴を脱ぐ。
最高の案が浮かんだじゃないか。
リリースが妥協する必要はなかったな。
この案を思いついた俺に120点あげたい。
俺は左足の靴を脱ぎ、レッドカーペットを踏んだ。
……これでよかったのか?
よく考えるとレッドカーペットは少し汚れ、異世界の文化も尊重されない。
「何してるの?」
「リリースの言った通りのことをしたの」
「レッドカーペットが汚れてるんだけど」
リリースは俺を睨んだ。
リリースが求めていたのはレッドカーペットを汚さないことだった。
なら最初から言ってくれ。
「リリースなら、レッドカーペットを汚さずに異世界の文化を尊重することをどうやるの?」
「異世界の文化?」
「靴を脱がない文化だよ」
「そんな文化はないよ」
ない? さっき、脱ぐ必要はないって言ったよね?
「なら、なんで脱ぐ必要はなかったの」
「パパがそう言ってたから」
最初からそう言ってくれよ。
てっきり異世界の文化かと思ったよ。
「リリースはレッドカーペットをどうやって渡るの?」
リリースは俺に求めたことをきちんとできるよね?
「まずは寝転ぶ。そして、コロコロと転がる」
リリースは横たえ、自分自身を回した。
その場で何回か回る、という罰ゲームでよくあることの横バージョンか。
確かに、靴を履いてレッドカーペットを汚さずに渡れている。だが、傍から見たら異様な光景だ。
「こう渡るんだよ」
「そうなんだ」
俺は靴を靴箱に入れ、レッドカーペットを渡った。
「なんで靴を脱いでるの?」
「回るのが面倒くさかったから」
結局、通常通りの渡り方をした。
レッドカーペットの先には扉があった。
その扉を開けると廊下が広がっていた。
レッドカーペットの廊下は食事でいえば前菜で、今回の廊下が主菜ということか。
「廊下の次が廊下ってすごいね」
「豪邸だから当然じゃない?」
俺は豪邸に居住したことがないため、知らない。
「廊下の左右に扉があるけど、その扉の先が部屋なの?」
「そうだね」
豪邸の部屋。
想像するだけで興奮が止まらない。
「なら部屋に行こ
「その前に廊下を堪能してね」
廊下を堪能? どういうことだ。
「早く部屋を見たいんだけど
「この廊下はすごいんだよ」
さっき俺が同じようなことを言ったよな。
「そうだね」
「すごくてすごくてすごいんだよね」
支離破滅な言動をしているが大丈夫か?
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
リリースは冷や汗をかいている。
何かありそうだな。
「部屋に突撃するね」
「待って、待って」
リリースは俺の腕を掴んだ。
「何で部屋に入ったらいけないの?」
「……部屋が汚いから」
私が部屋を片付けてから入って、ということか。
「そうなんだね。なら、リリースが片付けてから入るよ」
「一人じゃ片付けられない」
片付けが苦手なタイプか。
俺は得意だし、手伝ってやるか。
リリースに無償で豪邸に泊まらせてもらうし、これぐらいはしないとな。
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