第5話.友達

「隣家ってどれくらいの頻度で行くの?」

「一回も行ったことないよ」


 え? 行ったことない?


「なら、なんで隣家まで30時間って分かるの?」

「パパが言ってたから」


 そういうことか。

 てっきり、

「ふと、30という数字がおぼろげながらに浮かんできた」

 と、言い出すのかと……いや、あり得ないか。


「隣家に行きたいと思ったことはないの?」 

「あるけど、毎回辿り着けない」

「それって走りではなく、徒歩で30時間なの?」

「多分、そうだよ」

 

 走りなら過酷さも理解できるが、徒歩なら理解できないな。

 徒歩30時間とは、そんなに過酷なものなのか?


 一日に十時間歩くとしたら、三日で辿り着くぞ。

 リュックに水と食料を詰め込めば、三日は余裕だろう。


「30時間なら楽勝じゃない?」


 一年に一、二回なら行けるぞ。


「草原の中にスライムがいるんだよ」

 

 異世界だからスライムがいるのか。

 もしかしたら、ドラゴンや魔王などの強力な敵もいるかもしれない。

 そして、そんな敵たちを俺はなぎ倒していく……とはならないだろうが、成長していけばいずれは強力な敵も倒せるだろう。

 

 さすがに、スライムなら撃破できるはずだが……

 もしや、そのスライムが超巨大で戦うことすらできないということか?


「そのスライムはどれくらいの大きさなの?」

「両手で持てるくらいの大きさ」


 通常サイズだな。

 なら、撃破すれば終了じゃないか。

 いや、待て。もしかしたら、毒を持っているスライムというパターンかもしれない。


「そのスライムは毒を持ってるの?」

「持ってないよ」


 通常通りのスライムなら、煮たり焼いたりして倒せよ。


「でも、衣服を溶かす能力があるよ」


 毒ではない他の能力があったのか。


 中々に興味深い能力だな。

 興奮の方の興味深いではないぞ。

 化学的な意味の興味深いだからな。

 スライムさん。ぜひリリースさんを襲ってください。


「それってそのままの意味?」

「そうだよ」


 非常に興味深いな。

 早く見たいよ。

 あ、化学的な意味だからな。


「それに襲われるから隣家に行けないということ?」

「他にも理由はあるけど……」

 リリースは暗い表情をした。


「他の理由って?」

「サトルには関係ないから」


 気になるがそっとしておこう。と、したいところだが追求する。

 さっきは我慢をしてそっとしたが、やっぱり暗い表情をされると気になってしまう。


「教えてほしい」

「関係ないから大丈夫」

「教えてほしい」

「関係ないから気にしないで」

「教えてほしい」

「大丈夫だから!」

 リリースは怒り気味に言い、早歩きを始めた。


 聞く必要はなかったか……

 でも、聞いておくべきだと俺の脳と足が感知したんだ。

 なぜ足がかって? 足が痛いからだよ。

 痛みによって反応が鋭くなり、感知能力が上がる……という、俺の考えだ。

 実際は知らない。


「リリースさん、少々休憩をくれませんか」

「敬語じゃなくていいよ」

「あ、わ、分かった」

「別に怒ってないんだから」


 怒り気味に言ってたのに怒ってないのか。

 ……瞬間的な苛立ちだったのかな。


「友達にこのことを話す必要なんてないな。と、思ったんだよね」


 よく考えたら、出会って数時間のやつを友達と認定するんだな。

 いや、待て。数時間で友達認定する方が普通かもしれない。

 クラスで周りの席の人は、出会って数分で友達になっていたもんな……

 まぁ、幾分の期間だろうとも、友達認定は嬉しい。これでよいか。

 俺もリリースが異世界初の友達だな。

 異世界で友達を作れてよかった。


「こんなこと気にしなくていいよ。とりあえず、私の家に向かおう」

 リリースは早歩きになった。


 家に向かう前に、俺は休憩したいんだけど。

 暗い表情をした理由は気になるが、保留しよう。


――――


「そういえば、リリースは俺の姿を見たときになんで腰を抜かしたの」

「死んだ人が生き返ったから」


 確かに転生をする際に死んでいるが、異世界に来てからはきちんと生きていたぞ。


「俺は死んでない。ずっと生きてたよ」

「いや、死んでたよ」


 もしかして、俺は転生してから数時間、気絶していたのか?


「そのときに俺は数時間、身動きができてなかったのか?」

「数分だね」


 数分で死んだ人扱いは酷いだろう。


「数分じゃまだ生きてるかもしれないじゃん」

「だって、急に現れたんだよ」

「急に現れた?」

「散歩をしていたら急に眩い光が現れて、その後サトルが横たえた姿を確認したんだよ」


 異世界に転生をする際は派手な転生をするんだな……

 町中で転生したら、

「これは星かもしれない!」

 と思われて、厳重なものを保存する場所に連れて行かれそうだ。


 草原で転生をして良かったらしいな。


「リリースはその現象を何だと思ったの?」

「モンスターと戦闘して、やられた人が人里から離れた場所に転移したのかと」


 だから死んだ人と思ったのか。


「私が話しかけても全く返答がなかったし」


 それなら死んだ人とも捉えられるか……

 でも、体に傷一つなかったぞ。

 いや、体を傷つけずに攻撃をするモンスターにやられたと思ったのかもしれない。そんなモンスターが存在するかは知らないが。


「そうなんだ」

「まぁ、サトルが前世の言語で話してきたときに転生者だと思ったけど」

「なら、なぜ怯えながら驚いた表情をした?」

「生き返ったという可能性もあったから」


 どう考えてもないだろ。

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