第一章

第1話.転生

「○△○、△△○○?」


 俺は亡くなった。という展開に通常はなるはずだが、俺は生きている感覚がある。

 感覚があるだけで、実際は亡くなっている可能性もある。

 ……いや、ないな。

 多分、怪我で済んだのだろう。


 ちなみに、目を開けると血が飛び散る悲惨な姿が広がってそうなので、目は閉じている。


「○△○、△△○○?」


 さっきから微かに声が聞こえる。

 今いる場所は病院と考えられる。

 きっと、事故から数時間後に目を覚ましたのだろう。

 病院で看護師さんが話しかけている状況だろう。

 だが、話す内容が理解できない。

 俺の知らない言語のようだ。


「あの、大丈夫?」


 話す内容が理解できた。

 さっきの言葉は知らない言語だったが、今の言葉は知っている言語。

 もしや、外国人の看護師と日本人の看護師がいるということか?

 

「反応がないね。無視でいっか」


 看護師さんなら患者を無視することはないはずだ。

 なら、ここは病院じゃない。


 ……ここはどこだ?

 もしや、事故現場か?


 ……勇気を出して目を開くか。

 でも悲惨な姿に……いや、目を開かないと話が進まない。

 目を開こう。


 目を開くと、青一面の綺麗な空が広がっていた。


 そして、横たえた姿から立ち上がると、草の存在を確認できた。

 絶え間なく草が広がっている。これは草原だな。

 ……なぜ草原?

 俺、事故に遭ったんだよな?

 もしや、

「この人を救うのは無理難題だ。仕方ない、左遷しよう!」

 となったのか……って、それはあり得ないな。


 とりあえず、草原の中にポツンと俺が存在していることだけ分かった。


 俺は周りを見渡すと、人間を一人確認できた。

 背筋が綺麗で、サラサラで光沢のある茶髪。

 髪型はストレートロングヘアーだ。

 これは……美女確定だな。

 

 もしかして、あの人が俺に話しかけた人か?

 周りにあの人しかいない。きっとあの人が話しかけた人だ。

 俺は現在起きている状況が理解できないから、あの人に話しかけて状況を確認しよう。

 あの人が話しかけてきたし、俺が話しかけてもいいよな。


「あの! そこの方!」

 俺は大声を出した。

 女性は一瞬立ち止まり、俺から遠ざかる。


 なんで無視をする?

 幽霊が話しかけたとでも思ったのか?

 それとも、さっきのは俺の妄想上の話だったのか? それで、あの美女は関係ない人に話しかけられたと感じて避けるという形か?

 いや、きちんと耳から言葉が聞こえたぞ。

 

 俺は立ち上がった。

 どこにも痛みを感じることはなかった。


 体を自分の目で見える範囲は確認したが、傷一つなかった。

 トラックに轢かれて傷一つなしはありえないぞ……

 これは……巷で噂の転生か?


 周りは草原。体には傷一つなし。背筋で美人と分かる女性が一人。

 これは転生の可能性が高い。

 ……美人な女性は転生に関係ないな。


 転生は確定したが、どこに転生したのかは分からない。

 よくある異世界転生か? それとも昔の時代に転生か? それとも……天国に転生か?

 いや、天国は楽園だが、天国に草原はないだろう。

 そもそも、天国に行ったら転生ではないな。

 これは天国を省いた二択で決定だな。


 

 俺は女性のところまで走った。

 そして、女性の肩を触るとビクリと震えた。

 それと同時に俺の方向に振り向いた。


 震えたということは肩を触れるのはダメだったのか……

 なら手だったか……いや、手も震える。

 なら足か? いや、初対面で足を触るなんてあり得ない。


 肩も、足も、手も無理なら……胸か。

 いや、胸なんぞ触ったら、超絶本気なパンチが炸裂し怒られるぞ。

 ……どこを触ればよいのだろう。


 まぁ、女性を止めることはできたので、この話は棚に上げよう。


「え? え、え?」

 女性は恐怖に怯えるような倒れ方をして、ずっと驚いた表情をしている。


 スタイリッシュな体。

 眩しいほど綺麗な目。

 前からでも分かる綺麗な茶髪。

 これは、最高に出来上がった女子高校生の見た目だ。 

 最高に美女で最高に可愛い。


 そんな可愛い女性がなぜ驚いているのか、俺には理解できない。


「どうしました?」

「いや、え、え?」


 謎に恐怖を感じるからどうしたのか答えてくれ。


「あ、あの、どうしたのですか?」

「し、死んだ人が生き返ったの」


 この女性は何を言っているんだ。


「い、生き返るとはどういうことですか?」

「そのままの意味だよ」


 そのままの意味……背筋が寒くなった。

 も、もしや、後ろに誰かいるのか……


 俺はおそるおそる後ろを向くと誰もいなかった。

 誰もいないのかい。恐怖で失禁するかと思ったよ。 


「誰も死んでないし、生き返ってもないですよ」

「生き返ってるじゃん」

「どこにそんな人がいるんですか?」

「目の前」


 目の前?

 ……もしかして俺のこと?


「それって、超絶イケメンな人ですか?」

「普通な人」


 俺は超絶イケメン男子。

 俺のことではなかったようだ。


「俺には生き返った人なんぞ見えないのですが」

「見えないもなにも、自分自身のことじゃん」


 自分自身?

 ……俺のことか?

 いやいや、俺なわけがない。

 俺は超絶イケメン。男女関係なく、誰もが惚れてしまう人材なんだ。

 なので、

「イケメンじゃねえよ!」

 と、言う人はいない。


「誰のことですか?」

「あなたのこと」


 ……これは俺確定というか。

 俺がイケメンじゃない? 嘘つけよ。

 男女共に近づけないほど、俺はイケメンだったんだよ。

 俺が平凡なモブなんて……あり得ないぞ!


「俺のことですか?」

「そうだよ」


 俺のこと確定でした。

 俺は『平凡なモブ』という称号が胸に突き刺さった。

 俺は超絶イケメンだよ……


 ……『平凡なモブ』という称号は一生棚に上げよう。

 今は現状を把握しよう。


「ここはどこですか?」

「草原だよ」

「この場所の名はなんですか?」

「草原だよ」


 草原なことは知っているよ。

 俺はここら辺を何と呼ぶのか知りたいんだよ。


「ここら一帯は何と呼ばれているのですか?」

「草原だよ」


 この場所の名を聞いてもキリがないようだ。

 なら、世界の名でも聞くか。


「この世界の名を教えてください」

「私、そんな壮大な話はできないよ」

「壮大ではありません」


 名を聞いたらなぜ壮大になるんだ……

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