第46話 これくらいで死ぬなら
ドラゴンゾンビと呼ばれる魔物がいる。
高位のドラゴンが、死した後も何かしらの執念や魔法でこの世に残り続けることで誕生する魔物だ。
飛龍Ⅱ型と呼ばれ、俺たちの前に歩いてやってきたそれは、そんな魔物を思い出させた。
「似ているけど、違う。これは、そもそも生き物じゃない」
メビウスは冷静に言うが、俺はもう兜の中ではわわ状態である。
どないすんねんこれ……。
「その通り! これは、ドラゴンを模して作った我ら帝国軍武断派の兵器だ。ドラゴンゾンビなんて化物は、飼いならすこともできないしな」
先ほどまでの葬式のような静まりはどこに行ったのか、とても意気揚々と話してくれる人間。
「だが、我らが作り出し、ノービレ様が太鼓判を押したこの兵器は、ドラゴンゾンビを容易く屠ることができる程度の能力がある。この兵器の量産化、配備に成功すれば、我ら武断派は帝国の他派閥を撃滅し、どの国家よりも強大な軍事力を手にすることができる!」
すっごい色々と話してくれる中申し訳ないのだが、あまり興味ないんですけど……。
人間同士の争いはね……。
俺、全然関係ないから……。
「そのための試運転だ。貴様ら魔族の……四天王の首を、ノービレ様への手土産とする! 死ねぇ!」
切り替えの早さが凄い!
先ほどまで自慢げに話していたというのに、一瞬で殺意に満ちて飛龍Ⅱ型に攻撃命令を出す。
そして、俺たちは三人いる。
その中で最初にターゲットとして襲われたのは……。
「なんでしょっぱなに私なんだ!?」
フラウである。
英断ですね……。
人類を裏切って魔王軍四天王にまで上り詰めた大戦犯だしね。仕方ないね。
飛龍Ⅱ型は、猛然と突進してくる。
巨大な鉄の塊だ。
踏みつぶされるだけで、命を落とすだろう。
巨大な何かは、動くだけで周囲に被害をもたらすものである。
この飛龍Ⅱ型も、また同じだった。
「ぐおおおおお!? お、おも……っ!」
しかし、フラウは華奢な身体で飛龍Ⅱ型の突進を剣で受け止める。
ガチガチとすさまじい音が鳴り、火花が散る。
とてつもなくフラウの顔がブサイクなことになっているが、踏ん張っている。
鼻の穴は広がっているし歯はむき出しだし顔は真っ赤だし……。
それでも、自分の身体よりもはるかに大きくて重い飛龍Ⅱ型の突進を受け止めていた。
「なっ……!? 飛龍Ⅱ型の突撃を生身で止めるなど……本当に人間か?」
人外認定されていますよ、フラウさん。
あの兵器、どれくらい重量あるんだろう。
それを、細い腕で受け止めきっているあいつ……オークか?
女オーク騎士……新しいな。
「でええええい!」
呑気にそんなことを考えていると、フラウが気合の声を上げる。
そして、自分の方に突進していた飛龍Ⅱ型の進行方向をずらしてみせたのだ。
そう、受け流して俺の方に……。
受け流して俺の方に!?
貴様あああああああああ!!
「ふっ……」
迫りくる飛龍Ⅱ型。
突進してくるその後ろで、肩を荒く上下させながらフラウは笑みを浮かべていた。
確かに、このままでは俺は死んでしまうだろう。
俺の素の力では、どうすることもできない。
だがしかぁし!
この俺には、鎧さんという素晴らしいものがあってだなぁ!
この程度なら、障害にもならんのだよ!
【ふん!】
ギン! と重たい金属音が鳴り響くのは、鎧さんが剣で飛龍Ⅱ型の突進を受け止めた音だ。
フラウはズリズリと身体を押されながら受け止めていたが、鎧さんは受け止めた場所から一歩たりとも後ろに引かない。
さすがです、鎧さん!
さて、どうしてくれようかと悩んでいると、人間の声が聞こえてくる。
「飛龍Ⅱ型はドラゴンを模して造られた兵器だ。それゆえに……」
受け止めていた飛龍Ⅱ型の口がガパッと開くと、そこには球体の水晶みたいなものがあった。
そして、それは俺でも分かるほど濃厚で強い魔力が込められており……。
「ドラゴン最大の攻撃であるブレスも、当然模倣してある」
……ん? なんだって?
現実逃避をしている俺の目前で、水晶がカッ! と強い光を放ったのであった。
◆
超至近距離からの、飛龍Ⅱ型によるブレス。
暗黒騎士は避けることもできず、もろに直撃を受けた。
ドラゴン最大の攻撃方法と言えば、ブレスというのは誰でも知っている常識だ。
すべての障害を破壊し、緑豊かな大地を焦土に一瞬で変えられる破壊力を誇る。
飛龍Ⅱ型のブレスは、本物のドラゴンのそれよりははるかに劣るが、しかし人を殺すということだけを考えれば、かなり有用な破壊力を秘めていた。
「(人間同士の争いに投入する兵器としては、かなりいいかも)」
メビウスは冷静にそう考えていた。
まあ、どうでもいいことだが。
どうせ、自分が人間同士の戦争に関与することなんてありえないのだから。
それよりも、今は至近距離でまともにブレスを受けた暗黒騎士のことである。
いくら四天王最強……いや、大将軍とはいえ、今の攻撃はさすがに堪えただろう。
メビウスも多少心配の念を彼に送るのだが……。
「ぶっ、ぶふふふっ、ぶほぉっ!」
まったく気にせず楽し気に笑うのは、フラウである。
必死にこらえようとしているようだが、とてつもなくブサイクな笑い方になっている。
笑い転げるフラウを見て、本当に副官なのかと疑惑を持つメビウス。
どうにも、この二人の関係も複雑なようだ。
「……心配しないの?」
「ぶふっ、ふひっ! おひょひょ……! はぁ、はぁ……心配? なんで心配するんだ?」
もう落ちるところまで落ちてしまったような笑い方をしていたフラウであったが、なんとか息を整えて問いかけてきたメビウスを見る。
心配? その理由が分からない。
「そんなに暗黒騎士が嫌いなの?」
「もちろん、嫌いだが……それだけじゃなくてだな」
自分から自由を奪い、四天王にまで押し上げた男だ。
嫌いに決まっている。
……本来だと、昇進を後押ししてくれたのだから感謝してもいいのだが、あいにくフラウにとっては最悪のことだった。
それよりも、心配ということだ。
嫌いという理由もあるが、なにより……。
「これくらいで死ぬんだったら、私はとっくに自由になっている」
【かゆいな。この程度で、よくもこの私を殺せると思ったものだ。片腹痛い】
フラウの言葉に応えるように、冷たく重たい声が響く。
その声だけで、絶望に突き落とされそうになる。
ブレスが収まり、爆心地から平然と姿を現したのは暗黒騎士である。
ダメージを受けている様子は微塵もない。
鎧には、汚れ一つついていない。
「バカな……」
今回の魔族領侵攻を任された隊長は、愕然とする。
あれだけの至近距離でブレスを受けて、倒れもしないというのはどういうことか。
死なないのであれば、まだ分かる。
だが、ダメージを受けず、倒れもしないというのは……もはや、理解の範疇を超えていた。
暗黒騎士の手がゆっくりと伸びる。
それは、飛龍Ⅱ型の鉄骨に優しく触れて……。
黒いオーラが鉄骨に侵食していく。
鈍い光を放っていた銀の鉄は、みるみるうちに腐蝕していく。
そして、最後にはぐしゃっと地面に朽ち落ちるのであった。
「の、ノービレ様のおつくりになられた兵器が、こんな……!」
「……暗黒騎士。あなたなら、もしかして……」
愕然とする人間と、何かを見つけたような表情を浮かべるメビウス。
その表情は、激しく乖離していた。
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