第33話 崩壊していく
ぐにゃりと、ただの肉の塊となってしまったデニス。
かなりの巨体であるため、本当にブヨブヨとした異質なものに見えてしまう。
……そう、死体である。
ガッツリ死体である。
もうそれだけでも目を背けたいのに、これを作り出したのが俺だというね……。
ふっ……。
この鎧、何してくれてんだあああああ!?
いやぁ! 人殺しぃ!
人の身体使って人殺してんじゃねえよ!!
おろろろろろろ……。あの首を折った感触……おろろろろろろ。
「嘘、だろ……。さすがにバイオレンスすぎるぞ、暗黒騎士」
明らかに引いた様子で俺を見るフラウ。
すすすっと距離をとっていくのが悲しい。
ち、違うんです! 俺がやりたくてやったわけじゃないんです!
……っていうか、なんで俺がお前なんかに縋り付かないといけないんだよ。ぶっ飛ばすぞ!
「暗黒騎士様……助かりましたわ」
ルーナが立ち上がりながら、お礼を言ってきた。
もう立ち上がっても大丈夫なのだろうか?
俺を退職させるまでは死ぬんじゃねぇぞ……。
しかし、こいつの兄を殺してしまったのだが、何かしら思うところはないのだろうか?
敵意とか、できる限り持たれたくないんだけど。
恨みとか、超怖い。
【構わん。貴様には、ここで死んでもらっては困るからな】
「姫を貴様呼ばわりですよ。処刑しましょう、処刑」
コソコソとフラウがルーナに告げ口をする。
さっきからうっとうしい! 黙ってろボケがぁ!
「わたくしがあなたの期待に応えられなくなったときは……兄のようになるということですわね。肝に銘じておきますわ」
ルーナが無機質な目で俺を見ながら言う。
……期待?
ああ、俺がデニスに言った言葉だろうか?
とくに意味もなく言ったことだから、気にする必要はないのだが……。
別に大したことじゃないから大丈夫だぞ。
俺を四天王から退職させてくれるだけでいいんだからな。
「外に出ましょう。人間たちの首魁も逃げたようですし、メビウスも戻ってきています。おそらく、混乱はすぐに収まるでしょう。被害状況を確認する必要がありますわ」
そう言って、ルーナは歩き出し、俺たちはそれについていくのであった。
「あいたぁっ!?」
余計なことを言っていたフラウの頭に拳骨を落としておく。
◆
「む、ひどいな。これは、復興には時間がかかるぞ」
「経済的には大ダメージですわね。まさか、ここまで分かりやすい戦争行為を仕掛けてくるとは……。人間の愚かさを侮っていましたわ」
フラウの言葉に、ルーナも頷く。
魔王城の城下町。首都ともいえるこの街は、魔族領の中で最も栄えていた。
しかし、今では人間たちの破壊工作によって、凄惨な現場へと変貌していた。
あまり死体はない。
不意を突かれたとはいえ、魔族は人間よりも能力が高い。
反撃するとまではいかなくても、抵抗することはできたのだろう。
だが、一方で街そのものは抵抗することはできない。
破壊工作及び魔族の抵抗によって、街は大きく損壊していた。
店、鍛冶場などの生産現場も崩れているため、経済的なダメージは計り知れない。
元の力を取り戻すまでにも、長い時間がかかるだろう。
魔族の力を大きく損なう現状に、魔族絶対繁栄させるウーマンはどれほど強い怒りを抱いているのだろうか?
……怒るのかな、こいつ。
ずっと無表情なんだけど。
「……姫様」
「メビウス! 助けに来てくださいましたのね!」
そんな俺たちのもとにやってきたのは、四天王の一人であるメビウスだった。
わー……返り血がところどころついていてこわーい。
とくに、握られた拳が真っ赤になり、ポタポタと血が垂れているのが恐ろしい。
それ、全部返り血だよな? どうなってんの? 人を撲殺とかバイオレンスゴリラなの?
そして、彼女が来たとたんにバカ姫演技をするルーナの切り替えの早さにビビる。
「別に、そんな演技する必要ないと思うけど。私は本性を知って、どうするつもりもないし。面倒くさい」
「…………」
冷めた目でルーナを見据えるメビウス。
それに、ルーナが応えることはない。
ニコニコ笑顔で、言外に彼女の言葉を拒絶していた。
……もう演技する必要なくない?
デニスも死んでいるし……。
「随分と信頼されているんだね、暗黒騎士」
俺のことを見上げ、メビウスが言う。
嬉しくない。信頼されても嬉しくない。
むしろ、冷遇してくれたら嬉しい。
「……暗黒騎士」
そんなことを考えていれば、俺を冷たく呼ぶ声が。
振り返れば、魔族の街に決して存在してはいけない人間ランキングナンバーワンの女……勇者が立っていた。
ひぇ……。許して……。
「魔族の避難は、ある程度済みました。まあ、必要もなかったようですが……」
てっきり、勇者の剣は魔族の血でべっとりと汚れているとばかり思っていたが、どうやら誰も殺していないらしい。
それどころか、魔族の避難誘導までしたらしい。
どれだけお人よしなんだ、こいつ。
「こちらは? 強そうですわ!」
演技を継続するルーナに、フラウが答える。
「勇者だな。暗黒騎士に引導を渡してくれる素晴らしい人間だ」
なにとんでもないこと言ってんだ、テメエ。
絶対にそうならないし、仮にそうなったとしてもお前も道連れだぞ。
煉獄に叩き落してくれる……。
「勇者……魔族の大敵ですわね。とんでもないものを引き込んできたものですわね、暗黒騎士様」
勇者というとてつもないネームバリューに、さすがのルーナも目を丸くしてしばらく固まっていた。
演技もぶっ飛び、冷徹な魔族繁栄ウーマンに戻っていた。
俺のせいじゃないぞ。全部フラウがやったことだから。
「別に、私は普通の魔族を害するつもりはありません。皆殺しになど、するはずもありません。私の敵は……暗黒騎士だけですから」
前半は安心するのに、どうして後半だけで人を奈落の底に突き落とすことができるのだろうか?
この短い言葉だけで、俺は天国と地獄を味わっていた。
ハイライトのない目で見られたら怖い怖い。
止めろ。そんな深淵の闇で俺を見るのは止めろ。
どうしてこんな目の敵にされているんですかねぇ……。
「暗黒騎士、私と戦ってください。あなたを倒すために、私はずっと努力したんです」
俺を見上げ、勇者が言う。
やだよ。じゃあ、その聖剣を下ろせ。
マジで消滅しちゃうだろうが。
しかし、ここで頭脳明晰な俺がハッと気づく。
……ここで負ければ、四天王を退職できるのでは?
周りには、
つまり、証人は十分。ここで負ければ、魔王軍最強という不名誉なあだ名をつけられている俺の求心力は、一気に低下することだろう。
問題は、聖剣という魔族をたやすく屠ることができ、彼女自身が特記戦力ということができる勇者が相手だということだが……。
倒されるのはまったく問題ないが、勢い余って殺されそうな感じがする……。
いや、ここでひいてはいけない!
まさに、絶好の機会。ここを逃せば、次はないのだから!
【いいだろう、かかってくるがいい】
めちゃくちゃかっこいいぜ、俺……。
キリッとした言葉に、勇者も嬉々として聖剣を構えようとして……とてつもない轟音によって、注意が逸れる。
俺たち全員の視線を集めるのは、魔王城。
それも、崩壊していく魔王城だった。
【……えぇ……?】
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表紙も公開されていますので、ぜひご確認ください。
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