第27話 なんでやねん!
「……呼び出したのは、暗黒騎士だけのはずだが?」
「も、申し訳ありません!」
心底苛立たしそうにしながらデニスが言えば、使用人はただただ頭を下げることしかできない。
立場が違いすぎるもんな。
俺だって、この鎧を着なかったとしたら、一生面と向かって話すことはなかっただろうし。
「わたくしが無理を言ってついてきたのですわ! だって、お二人だけで楽しいお話なんてずるいですもの。わたくしも混ぜてくださいまし!」
「ひ、姫……」
ルーナがバカ姫の皮をかぶりながら、あからさまに庇う。
ただ善意から助けたわけじゃないんだろうなぁ。
人は窮地に陥っているときに助けてもらったら、その者に恩と好意を抱くものだ。
数は力だからな。天爛派に使用人を引き込もうと考えたのだろう。
怖いわ、この女。
実際、使用人は救世主を見るかのような目でルーナを見ている。
この小さなことで、ルーナは一人手ごまを増やし、デニスは失ったのである。
「……まあ、いい。別に、お前が危惧しているようなことをするつもりはなかったからな」
「危惧? 何がですの?」
デニスは、暗に俺を引き抜くつもりはなかったと言っているのだが、ルーナはキョトンとする。
ここでも鉄壁のバカ演技。やっぱ、すげえわこいつ。
しかし、引き抜くつもりがなく俺を呼びだしたというのは……どういう理由だろうか?
「ふー……。先ほど報告があってな。人間どもが、魔族領に侵入してきた。その対処を、暗黒騎士に任せたい」
えー……なんでそんな面倒くさいことを俺が?
自分でやればいいじゃないっすかー。
「ほかの兵じゃダメですの? 暗黒騎士様は、最高戦力ですが……」
そうだそうだ! 働かせようとしてんじゃねえよ!
「普通の人間なら問題ないんだがな。どうにも、かなり高レベルの兵を寄こしたらしい。A級以上の冒険者か、それとも騎士団長クラスなのか……。どちらにせよ、一般の魔族では分が悪い」
そんなのが相手ならなおさら行きたくねえよ……。
A級って、確か四天王にまでは及ばないが、そのすぐ下くらいの魔族ともまともに戦えるほどの実力者だろう?
騎士団長なんて、国軍のトップだし、かなり強そうだ。殺されそう。
【今の私はルーナの指揮下にある。彼女の許可をとれ】
「ちっ……!」
俺がそう言えば、デニスはあからさまに不機嫌を露わにする。
俺が断ったら角が立つからな。
さあ、ルーナ。こっとわれ! こっとわれ!
敗北はしたいが、そこまで強い奴と戦いたいわけじゃないんだぞ。
なんていうんだろう……。適度な強さって言うのかな?
そう考えると、あの勇者はやっぱりだめかもしれない。
冷静に考えれば、あいつ四天王のトニオに勝っているんだよな。
まあ、あちらもかなりボロボロになったらしいし、数でもパーティーという意味で一人のトニオより多かったらしいが。
そんなことを考えていると、少し考えていたルーナが口を開いた。
「……分かりましたわ! 暗黒騎士様にお任せしましょう!」
ああ!? 何も分かってねえじゃねえかテメエ!
もしかして、バカ姫が頭に侵食しているのか?
頭がパッパラパーになるのは、俺を退職させてからにしてくれ!
「……そうか、感謝する。すぐに向かってくれ」
デニスがそう言って、会話は打ち切られてしまった。
おお、もう……。
◆
「いいんですか? こいつを姫から遠ざけても」
ルーナの私室へと戻る道中、フラウがルーナに尋ねる。
そうだそうだ! 説明しろ!
今、俺がルーナから離れることだって、適切ではないはずだ。
なにせ、ここはいまだに主流派が押している魔境である。
俺がいるからこそ暗殺者なども送られてこないということもあるだろう。
その抑止力を、自分から手放すなんて下策でしかない。
というか、やばいくらい強そうな奴がいるところに行きたくないんです。
代わりにフラウ送るから許して……。
「強い人間が攻めてきたというのは本当ですわ。わたくしのところにも、その情報は入ってきていますもの。問題は、暗黒騎士様以外に対応できる魔族が、今いないということですわ」
「四天王の二人は負傷しているし……」
悩むしぐさを見せるフラウ。
メビウス! メビウスがいるぞ!
「メビウスもその穴を埋めるために、今この首都を離れていますわ」
俺は兜の中で、深いため息を漏らした。
はぁ……何してんの、君たち。
もっと頑張らないといけないのでは? 休みなんて必要ないよね?
たとえ、怪我をしていても四天王を休む理由にはならないのでは?
死ぬまで働け。俺はしないけど。
「必然的に、残っている暗黒騎士様が動かなければいけませんの。ここで、自分の身可愛さに暗黒騎士様を手元に置き続けていれば、そこをお兄様に突かれてしまいますわ。そうなると、人心が離れていく可能性もありますわ」
【ああ、分かった】
俺は重々しく頷く。
めちゃくちゃ行きたくないが、まあデメリットしかないというわけでもない。
よくよく考えれば、暗殺とか仕掛けられそうなこの場から離れられるのはメリットでしかない。
ルーナに死なれるのは困るが……まあ、オットーが敗北してすぐだし、今は大丈夫だろう。
「よろしくお願いしますわ、暗黒騎士様」
そうして、無表情のルーナに見送られて指定の場所に向かった俺たちだったが……。
「あ、暗黒騎士!?」
【あ……】
そこにいたのは、かつて戦った勇者パーティーだった。
なんでやねん!
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