学サー1-24

 さて、とりあえずは不老不死について調べてみることとした。身辺の報告と言っても無知のままでは何もできぬと思ったのだ。

 日本だけでも多くの話が見受けられる。しんの始皇帝に命ぜられ不死の仙薬を求めに上陸した徐福じょふくの伝説は、佐賀県佐賀市諸富町もろどみちょうを始め各地に逸話が残る。アニメや漫画で目にしたこともあろう、人魚の肉を食し不老不死にという逸話は、鳥取県米子市彦名町ひこなちょうや福井県小浜市おばましほか、各地で伝えられる。驚くべきことに、不老不死の伝説は二十世紀に入ってからもまだ報告があったようだ。老人から供された料理を食べたことで……とあるのは、東北地方に多い。液体を摂取したことが端緒だった事例としては九州地方に多い。こういうオカルティックな伝説は近世までのものだと思っていた。見よ、新しいものだと昭和三十八年の報告もある。終戦からかなり経っているじゃないか。ただこの伝説を蒐集しゅうしゅうし発表したのがこの年だったというにしても、少し前まで、僕らのいとなみのすぐ隣に、こういった不思議は息づいていたのでなかろうか。まあこの事例が佐渡さどのものだからという向きもあろう。そうしてまあ、現在は令和時代だ。誰もがスマートデバイスを持つ。誰もが一定の科学的素養を有する。幽霊がどうといったことで市井しせいは騒がない。神霊はエンターテインメントに堕ちた。

 そういえば何で僕は人文学部に進んだのだっけ。後藤先生の講義を受けることとしたのだっけ。それは柳田國男やなぎだくにお窪徳忠くぼのりただの記した話に興味を持ったからではなかったか。もしや僕は、そんな類例に、生きた事例に、片足を突っ込んでいる状態なのでないか。だとして、僕の頭はこれらをおとぎ話の産物としてしか処理し得ない。小さな頃に感じたあの昂揚こうようはどこへ行った。冷め切った自分をつまらないものとして思う。

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