学サー1-23

 調べろと言われ何をどう探れば良いのか。

 みつきさんは自身をオカルト世界の住人だと称した。信じられるか。普通ならば一笑いっしょうに付して終わりだろうさ。けれどあの部屋で起きたことは紛れもなく現実の出来事たる。信じぬわけに参らない。後藤先生もそちら側の人間なのだと言う。何を調べれば良いのか検討もつかぬ。

 生贄に選ばれました。大きな蛇に喰われました。それは神さまでした。気づいたら体外に倒れてました。誰かが神を傷つけたようで一命を取り留めました。その誰かは五稜という人物でした。現代では後藤と名乗り大学講師をしておりました。みつきさんは死なずに済んだけれども、不老不死? なのか? に、なったようです。死なせてほしかったから後藤先生を逆恨みしています。先輩らの失踪に先生が関わっているだろうから調べてみてほしいです。

 はあ? 

 因果も何もよく分からない。みつきさんはまだ何かを隠している。それだけで殺すなどと強い言葉を使うだろうか。僕が普通の人間だから理解ができないだけなのか。そもそも後藤先生がなぜ僕らを狙う。話を聞く限り先生はヒーローだ。化け物に喰われた女性を救出したようにしか聞こえてこない。その時の呪いにより二人とも不老になったのだと考える方が、話のプロットとしてまだ筋が通る。

 まったく、展開に頭が追いついていかない。

 バイト代だ。お金をくれるというからやるだけだ。深入りはすまい。お金はほしい。それだけだ。

 テスト期間が終わってしまうと学校の図書館も開かない。市立の方へ行ってみようか。

 今年は本当に雨が降らない。全国的に異常なほどの酷暑と騒がれる。

 子供の頃、八月といえば夕立の降る季節だった。朝は近所の公園でラジオ体操をした。高学年のお姉さんが首から下げたカードにスタンプを押してくれた。朝は少し肌寒く、僕はいつもシャツを羽織って出た。体操が終われば何人かと虫を捕りに行く。大きなオニヤンマを捕まえた奴が賞賛された。そこかしこで蝉が鳴いていたし、誰かの家の軒先で麦茶を飲めば、下がる風鈴が風の存在を教えてくれた。持ち寄ったゲーム機でプレイデータのやり取りを行う昼下がり、その二時間ほどだけ、外気温は三十度を超えた。僕はまた涼しい時間が訪れるのを待って図書館へ繰り出す。自転車を漕ぎ漕ぎ、片道で一時間はかかったはずだ。難しい本はまだ読めない。水木みずきしげるの漫画ばかり見ていたように思う。帰り道、分厚い雲に空がどんどんと暗くなっていく。僕は橋の下で読書をしてやり過ごした。ザァザァと響く背景に混じって、時折ピシャリと遠雷が聞こえる。本から顔を上げて見ると、いつの間にか雨はいなくなっている。空は橙色に染まり、世界自体も赤く色味がかる。僕はまた自転車にまたがる。道の脇からカナカナカナと音がする。

 いつからだろう。そういえば夕立だなんて言葉は使わなくなった。代わり、昼に降りやがる。ゲリラ豪雨との言葉に情緒じょうちょは無い。子供時代に遭わなかったからだろうか。今の僕は、図書館へ行くのに傘を持たない。

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