学サー1-18
「失礼します。
後藤先生は机に向かい何かの書き物をしていた。室内だのに
「はい、どうなさいましたか」
後藤先生はまだお若いだろうに、一個の完成された人間として見える。変な感想だよな。遊びの余地の無い人格というのだろうか。
「上野のことで少し相談がありまして。あ、同じサークルの、農学部の、上野健二のことです。後藤先生このあいだ上野の家まで来てましたから」
「連絡のつかない件ですね」
「はい、そうなんです。心配で。それで、先生、これ、上野の」
みつきさんから
その中に何が入っていてどのようなことが起こるのかだなんて僕は聞かされていなかった。
突然、それに触れた後藤先生の右手から煙が上がる。
「新庄くん、一体、これは」
後藤先生がこんな大きな声を出す様だなんて初めて見た。僕も余りのことに動けないでいる。床に積もりゆく紙には文が書き連ねてあった。かろうじて「
「新庄くん、また改めて事情を話してもらうよ」
先生はしゅぅしゅぅと煙を吐き出す腕を押さえ僕を
「なんで開かない。なんで開かんのだ、新庄、何をした。何をした、答えろ新庄」
何をと言われても僕にだって分かんないんよ。言葉は出ていかなかった。必死の
「無様だな、
なぜだ。いつの間にか
「もう観念しろ、五稜」
みつきさんが告げ、先生の右腕がずるりと取れた。僕は小さく悲鳴を上げた。先生もみつきさんも僕の方へは見向きもしない。両者ともに互いだけを見据え
「そうか、君か。八十年ぶりかな」
「そのくらいね」
みつきさんが鞄から
先生がロッカーに手をかけ棒状の物体を……や、刀だ。日本刀じゃないか、これは。なんでこんなものが部屋の中にあるんだよ。
つと、落ちた腕が僕に向かって跳躍する。独りでにだ。思わず悲鳴が出た。不快な虫が目がけてくる様に似ていた。脳が物体をそうと認識するより先に僕は叫び声を上げながら振り払っていた。目を瞑る。今のは先生の腕だった。何もかもが異常だ。訳が分からない。これは夢じゃなかろうか。そうだ、夢に違いない。だって来週からテスト期間な訳だろう。ストレスだ。ストレスでおかしくなっているんだ。目が覚めたらスーパー銭湯へ行こう。ズル休みして朝からビールを開けてしまおう。もうたくさんだ。
目を開けるとみつきさんが駆け出すところだった。どう覚めて良いものか分からない。これは夢じゃ無い。後藤先生が刀を振り下ろす。みつきさんの伸ばした腕を掠めていく。そうして、気づけば先生は消えていた。え、またも意味が分からない。いないのだ、先生が。みつきさんが吸い殻を床に叩きつける。悪態とともに靴で踏み
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