1-3
病室から外へ出ると、ふたりほど、響を待っていた。
ひとりは40代ほどの女性。何度も見る顔。
さくらを車ではねた『石神』の妻。
何度も響に金をもって謝罪に来ているが、響は受け取らず、面会すら遠慮するよう求めている。
そして、もうひとりは……
初対面。
見た感じ、高校生だろうか?
細身で長い黒髪。整った顔立ち。
しかしその美しい顔立ちは曇って見える。
「こんばんは。どうかお話だけでも……」
女性が響を見るなり歩み寄ってくる。
響は女性の顔を見ようともせず、
「もう、来ないで欲しい。そう伝えたはずです。」
と冷たく突き放す。
「あ……」
何か言いたげな顔をするも、沈黙し、下を向く女性。響は女性を見もせず、背を向ける。
その時。
「待ってください!お話だけでも!」
女性と一緒にいた、高校生くらいの少女が、響を呼び止めた。
少々驚き、振り返る響。少女はその様子を見逃すことなく、言葉を続ける。
「悪いのは……父です。母は悪くない。お話だけでも、聞いていただけませんか?」
少女は、『石神』の娘だったらしい。その瞳に涙を溜めながら、それでも溢れないよう堪えながら、響に言葉をぶつける。
少女の熱意に、響は心が揺らぎそうになった。
しかし、さくらの様子を思い出すと、揺らぎそうな心が再び凍り付く。
「それでも……帰って欲しい。」
響は、絞り出すように言った。
「貴女達の事情がどうであれ、さくらが轢かれ、目が覚めない、そしてこれからの夢も希望も絶たれているのは……事実だ。貴女方が何と言おうと、それは変わらないし、金で解決できる話じゃない。」
ふたりの気持ちはわかる。だからこそ……
響はふたりに背を向けて言った。振り返ってしまったら、ふたりの表情を見てしまったら、言葉や気持ちが揺らいでしまう、そんな気がしたから。
「失礼します。」
そんな響の背に、深々と頭を下げ、女性は立ち去ろうと歩きだす。そんな女性の背を、
「お母さん!」
と追っていく、娘。
響は、ふたりの足音が消えるまで、その場を動こうとはしなかった。
いや、その場から動くことが出来なかった……。
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