1-4
ふたりが去り、静けさを取り戻した病院で。
ゆっくりとさくらの病室に戻り、ベッドの横の椅子に座る。
電子音。
目を覚まさない、さくら。
「お前なら、どうした……?許したか?」
さくらなら、と考えてしまう響。
きっと、さくらなら……
「ほんと、危ないんですからね!死んじゃいますよ!!」
などと、相手の心配して、軽く許してしまうんだろうな……
いつだって、さくらはそうだった。
自分のことよりも、人のことばかり気にするお人よし。
自分が危ない目に遭っても、無事だったらきっと、許していただろう。
まるで、眠っているようなさくらの表情。
目が覚めるかどうかも分からない現状。
「それでも、俺は全く知らない家族の心配よりも、お前の未来の心配をしてしまう。お前ほど、お人好しじゃないんだよ……」
自分の心の小ささに、そして何も変わらない現状に苛立ちを覚える。そして、やり場のない苛立ちをぶつけることもできず、立ち上がった。
「失礼しました。」
さくらの病室を後にし、病院を出る。
冷たい風が、まるで頭を冷やしてくれているようで、少し心地よかった
小さくため息を吐くと、響は帰路についた。
病院から家までの、いつもの帰り道。
途中、通りすがったコンビニから、「初雪」のイントロが漏れる。
響は立ち止まるが、またすぐに歩き出す。
「ピアノは……目的がないと弾けないだろ?俺には、もう目的は見つけられそうにない……」
まるでさくらに言っているかのような、独り言。
そんな響の言葉に応えるかのように、強い風が吹いた。
迷える天才ピアニスト、麻生 響。
彼が再びピアノと真剣に向き合うのは、まだ先の話である。
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