第2話 あずさ
友達が欲しい僕は、歌を歌っていた。曲の流れに身を任せて歌を歌うと簡単にいろんな気持ちが出てくる。楽しい歌では楽しい気持ちに、悲しい歌では悲しい気持ちになって歌えた。
歌うのをやめて少しすると寂しさがじんわりじんわりしてきて友達が欲しくなった。歌を歌っているとあんなに簡単に気持ちがかわるのに、この寂しさは簡単にはなくならない。友達が簡単にできればいいのかもしれない。僕は次の日の歌うことにした。
歌っていると友達ができた。
あずさちゃんだ。あずさちゃんは歌うのがとっても上手でたまに人がたくさんいる前で歌を披露しているらしい。
「あずさちゃん、こんにちは」
「こんにちは今日は何を歌っているの?」
「今日はとりあえず叫んでいたんだ」
「叫んでいたの?発声練習なのかな?」
「発声練習じゃないよ。多分歌だよ」
「歌なの?なんの歌?」
「うーん。僕の心の嘆きの歌なんだ。ほおおおおおおお!!」
「ふふ、なんだか鳴き声みたいだね、カエルのうたのアレンジみたい」
あずさちゃんも叫び始めた。でもその叫びは角がとれていて周囲の音と喧嘩せずに溶け込んでいくような綺麗な叫びだった。こんなにきれいに叫べたら。たくさん人が集まって目を瞑って聞いたり、一緒になって叫んだりしてくれるのかもしれない。それがあるとき歌になって僕も歌うようになったのかもしれないと思った。
僕はいつからか、あずさちゃんの叫びをじっと黙って聴いていた。のびやかな青と爽やかな白の空いっぱいに色とりどりの鳥が羽ばたいていたんだけども、鳥も歌に耳を澄ませていたのか鳴き声はきこえなかった。揺れる木もそよぐ風も、流れる水もみんなあずさちゃんの歌のような叫びに聴き入るように音を控えていた。ように思えたんだ。
「なんだあ。すごい」
「ありがとう。やっぱり私は歌うのが好きみたい。嘆きも歌になるんだもん」
あずさちゃんはステージ袖に消えていった。彼女を待つたくさんの人の背中がみえる。いつのまにか空はピンク色になっていて僕の手のひらも暖かに染まっていた。あずさちゃんとはもう会えないと思う。僕はまた一人友達がいなくなった。今日はゆっくり眠れそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます