黒い太陽の昇る空の下、僕らは誰に見送られることも無く海氷の上を歩き出していた。僕──ボムは、隊長の真後ろを大人しく歩いていた。その後ろには僕らが怖気づいて逃げ出さないように監視する兵士が二人、距離を開けて着いてきている。表向きは彼らも調査隊のメンバーなのだが、隊長が癖のある人物だったせいか異例の監視役が付けられる事になってしまった。

上官達が僕らの海の調査を許可してくれたのは良いものの、隊の結成にあたって何故か僕以外の同行を酷く嫌がった。どんなに有能な人物を上官達が指名しても頑として首を縦に振らなかった。彼曰く──お荷物は僕だけでいい、と。結局そうやって駄々を捏ねるものだから、国外逃亡の疑いでも掛ったのだろう。監視は絶対に付ける、それでなければ許可はしないと圧力を掛けられて、渋々彼は首を縦に振ることになった。

「なんで、僕なんかを」

背後からそう問いかけてみると、彼は振り返る事さえせずに答えてくれる。

「お前は誰よりも口が堅い」

俺のお墨付きだ、誇っていい──光を受けて美しく輝く白髪が、冷え切った風を受けて揺れている。

僕は分厚い外套を羽織っても尚まだ寒さで震えながら歩いているのに、彼はいつもの軍服のみでこの調査に赴いている。ちらりと後ろに視線をやれば、監視の彼らも僕と同じ外套を羽織っていた。これだけ寒いのに、顔も声色一つも変えずに歩いているのだから恐ろしい。

「集中しろ、馬鹿垂れ」

不意に彼が僕の方を振り返り、勢いよく首根っこを掴み上げた。驚いた余り、黙って掴み上げられたまま視線を落とす──足元には大きな穴が開いていて、底は見えない。本来なら海が広がっているはずのそこに、水の気配は無かった。

「お前に今死なれては困る、精々果てまではついて来い」

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