EVOL=EM

mufuji

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母なる海が枯れ始めた。

海面が徐々に下がり始めたのは何時の事だったか。海の果てに程近い島からその報告が入った後、数日後には連絡が途絶えた。幾つかの国が調査隊を派遣したが彼らも例に漏れず海の先へと消え失せ、誰一人としてその先の景色を語れるものは居ない。

「それでも、俺はその先へと赴きたいのです」

白髪の男が、肩章を揺らしながら会議室へと踏み込む。室内では死んだ表情の老人たちが集っており、皆一斉にその美しい侵入者に視線を奪われた。

「俺ならば、必ずやその任務を成し遂げましょう」

白髪に眼帯のその男──僕の上司であるイヴォル=エムは澄んだ声でそう言った。軍帽の下から覗く、髪と同じ純白の瞳は部屋の上官達の事など見てはいない。彼の視線の先は窓の外、海氷で覆われた海に縫い留められている。

厚い氷の下、死に始めた海の先を。

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