第5話 妹の友達はやってくる。

 つかさちゃんは相変わらずうちにやってくる。

 妹と過ごす時間もあるものの、僕と過ごす時間が増えて、今までよりも堂々と僕の隣にいることが多くなった。


 聞けば妹と仲がいいのは本当だけど、小さい頃から僕を好きでいてくれたみたい。だから家に来るのは妹のためであると同時に、僕に会うためだったのだとか。

 まさかそんな話の運びだったなんて全く思わなかった。

 僕は妹の友達だからこそ、「手を出した」と思われないように頑張っていたのに。


 今はもう隠す素振りがない。すでに僕が知っているからだ。

 つかさちゃんは以前にも増して楽しそうになった。


「はるたさん。えへへ」


 それから変化はもう一つある。

 僕を「お兄さん」ではなく名前で呼ぶようになったことだ。

 その時の顔が本当に嬉しそうで、笑ってるのもそうなんだけど明らかに表情の筋肉が緩んでる。


「何? つかさちゃん」

「はるたさん。えへへへ」


 名前を呼ばれるだけで、もしくは呼ぶだけでここまで顔が変わってしまっていて、つかさちゃんの新たな一面を知った気持ちになった。

 僕が知らなかっただけで彼女はずっとこうだったのかもしれない。

 思い返せばアレもコレも、要するにこういうことだったんだろうなぁとわかった。


「あの、はるたさん」

「ん? 何?」


 今度は名前を呼ばれただけじゃなくて、両腕を広げて僕を見つめている。

 何を求めているのか、これでわからないほど鈍感じゃない。

 僕も腕を広げると、つかさちゃんの表情がわかりやすくパッと明るくなった。


「ん、いいよ。どうぞ」

「はいっ」


 つかさちゃんが僕の胸の中に飛び込んでくる。タックルみたいな勢いだった。

 お互いに強く抱きしめ合う。つかさちゃんがぎゅうっと腕に力を込めてくるので、こっちもお返しのつもりでぎゅううっと強く抱いた。


「ふわぁ♡ はぁ、んぅ……!」


 やっぱりたまにエロい声が出てくるけどそれを聞くのも前とは心境が違っていた。こうなってしまうとエロいのなんて大歓迎。

 いや、本人には言えないし言うつもりないんだけど。

 たまにというか、一緒にいる時間が多くなると度々こういうのがあった。


 どうやらつかさちゃんはボディタッチが多いらしい。

 前までそんなことなかったと思うから我慢してたんだろう。いや、度々あったか? 自分から僕の手を握ってきたり抱き着いてきたり、あるいは僕からするようにおねだりしてきたりする。

 受け入れるしかないってくらい、多いなって思うくらいあった。


 可愛いなぁ、と思うと同時に、ふとした瞬間に思うこともあるのだ。

 あれ? 結構進んじゃってない? って。


「えへへ、はるたさんのお尻……」


 抱き合ったままがっつりお尻を揉まれている。

 服の上からとはいえ、結構な出来事なんじゃないか? って思ってしまうのだ。


「あのー、つかさちゃん。すごくお尻を揉まれてるんだけど、そういうのは」

「パンツ……黒なんですね」

「つかささん? 男にもですね、恥ずかしいっていう感情はあるんですよ」


 僕のズボンを引っ張って中を覗かれたみたいだ。色を言い当てられた。

 パンツぐらいなんだ、って人もいるだろうけど僕は違う。そんな、下半身なんて、たとえ下着だけであったとしても見られたとしたら色々思わずにはいられない。


 つかさちゃんがズボンから手を離したのがわかった。

 でもその手でお尻を触るのはやめてない。


「ご、ごめんなさい。嫌でした?」

「嫌っていうか、まあ、そんなに大したあれじゃないけど。ちょっと恥ずかしいかなと思ってさ」

「そうですよね。でも私、洗濯物を畳んでいるので、はるたさんの下着はいつも見てるんですよ」


 そういえばそうだった。

 いやいや、でも履いてるとこは見せたことないし。


「履いてるときに見られるのはまた別だと思うんだ……」

「あ、そうですよね。ごめんなさい。私ったらうっかり」


 うっかりで済む話なのか。よくわからないけど、悪気はないんだしまあいいか。


「あの、えと、はるたさん。じゃあ……私のも見ますか?」

「え?」


 いやいや……いやいや! それはまずいだろう。

 見たから見返してやるって、そこまで恥ずかしかったわけじゃないし。それはまた別の意味を持ってしまうような気が。


「や、やめとく。それはまだちょっと、ね?」

「……むぅ」


 つかさちゃんは一目でわかるくらい不満そうだった。

 一応、あなたのために気を使ったつもりだったんだけど。

 だからって「じゃあ見るよ!」とは言えないのが僕の小さいところで。見たい気持ちは叫び出したいくらいにあったけど、結局断念した。


 いくら付き合ってるからってそれはハードルが高いよ。

 大体、付き合いは長いけど交際してほんの数日でしかないわけだから。


「まだ、ですよね?」

「……う、うん」

「えへへ♡ じゃあいいです」


 そう、「今はまだ」の話。

 いずれはまあ、ね?

 そういう気持ちはめちゃくちゃあるし、我慢できなくなる日があるかもしれない。でもあんまりがっつく感じっていうのはだめだと思うから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る