第4話 妹の友達がお願いしてくる。
ひとしきり肩もみしてもらって、かなり気持ちよかった。
下心はない。ただお返しが必要だと思ったのだ。
「今度は僕がやるよ」
「えっ⁉ おお、お兄さんがですか⁉」
でっかいリアクションでびっくりされた。ここまでだと僕もびっくりだ。
「あ、嫌だった? それなら――」
「嫌じゃないです! お願いします!」
「お、あ、はい」
嫌だったのかと思って反省したけどそうじゃなかったっぽい。
改めてお願いされたから位置を変わる。
つかさちゃんがソファに座って、僕がその後ろに立った。これから、彼女の肩に触れて揉む。あくまでもマッサージのためだ。でもドキドキしてきた。
「じゃあ、いくよ?」
「は、はい」
なんでもないことのはずなのにちょっと緊張する。肩を揉む人が男女入れ替わっただけなのにこの感じはなんだろう。
変な意識は厳禁だ。彼女は妹の友達。僕が変な感じ出して二人の友情をおかしなことにしたくない。
つかさちゃんの肩に手を触れた瞬間、びくって反応した。
まだ力も入れてないから痛いってことじゃないだろう。触れられたことにびっくりしただけかもしれない。
「んっ……!」
指に少し力を入れて、痛くしないように気をつけたつもりなのに、つかさちゃんは漏らすみたいに声を出した。
その声がなんだか妙に色っぽい。
そういうのじゃない。僕は自分を律して、ただの肩もみをする。
「んっ、はっ、はぁ……」
ただ肩もみしてるだけだ。痛くもしてない。
それなのにどうして彼女の口からはエロい声が出てくるんだ……!
僕が何か間違えてるのか? だんだん心配にもなってくる。
「あの、つかさちゃん大丈夫?」
「あ、は、はい。気持ちいいです、はぅ……!」
「そう……それならよかった」
「はぅ、うぅぅ……」
僕は間違ってない、はずだ。
かといって彼女が間違っているとも思わなくて、ただ反応がいいだけなんだろう。もしかすると僕なんかよりずっと肩が凝ってたのかもしれない。
いつも頑張ってくれる彼女の肩の凝りをほぐせるなんて僕は幸せ者だなぁ。
この状況を誰に見られたって恥じることはない。誤解を生むこともない。
もし仮に妹が部屋から出てきて目撃したとしても何のこともない。
だってただ肩を揉んでるだけなんだから。
「あ、あの、お兄さん」
つかさちゃんが僕に振り返って顔を見上げてきた。
ほっぺたは赤くなって、目は潤んで、なんというか、エロい風にしか見えなくなりつつあるんだけど、これもなんでもない。肩もみが気持ちよかっただけなんだ。
「あの……」
「ん、あっ、何? どうかした? 痛い?」
「いえ、気持ちいいんです……けど。もう一つだけ、お願いが」
お願いという言葉を聞いてまず珍しいと思った。
つかさちゃんが僕に何かを求めることはあまり多くない。おねだりとかお願いってものは妹で慣れてる反面、妹以外に言われること自体が少なかった。
これだけお世話になってるわけだからお願いなんていくらでも。
なんでもは無理にしたって、何かお返しをしなきゃいけないって前から思ってた。
「いいよ。何かしてほしい?」
「頭を、撫でてほしいです……」
頭を?
まさかの要求だった。
そりゃ全然大したことじゃないけど。
「そんなのでいいの?」
「は、はい。というより、それがいいんです」
「僕は全然……それじゃあ」
つかさちゃんは期待した目で僕を見ていた。
そんなに大したことじゃないのに。そう思いながら早速手を伸ばしてみると、咄嗟に頭を差し出されて、待っているのが伝わってきた。
緊張しながらそっと頭を撫でてみる。
「んっ……えへへへ」
なんか、可愛い。
妹みたい、というのは違う。実際に妹がいるもんだからそうは思わない。
むしろ動物みたいにっていう方がしっくりくる。うちはペットを飼ったことない。でもそれこそつかさちゃんが家で犬や猫を飼っていて、撫でてほしそうに頭を突き出してきたり、撫でて嬉しそうなのは犬猫を撫でた時を思い出す。
そう思うのも失礼か。
ただ、可愛い。そう思ってしまうのは確か。
何か会話でもしていないと心がどうにかなってしまいそうだった。
「頭撫でられるの……女の子が好きって思われがちだっていうのは、全くの嘘だって話を聞いた気がするんだけど」
「それは、人それぞれですよ。体に触れられるのが苦手な人もいますし、好きでもない人に頭を撫でられるのは私だって嫌ですから」
それはそう、あ?
「あっ……」
それじゃあ僕に頭を撫でてほしいって言ったつかさちゃんは?
いやいや、調子に乗るな。こんな程度で有頂天になっちゃいけない。
それこそ好かれてるわけでもないのに女の子の頭を撫でちゃうような奴は、きっと「俺はモテてる」なんて勘違いするからそんな状況になってしまうんだ。
男側がしっかり気付かなきゃいけないんだ。
脈があるか。好かれてるか。頭を撫でられるのが嫌じゃないか。
そういうことをきちんと考える必要があると僕は思う。
つかさちゃんは僕の顔をじっと見上げていた。
目は少し潤んでいるように見えて、いつもとは雰囲気が違うように感じた。
「今のは、口が滑っちゃっただけです……」
「あ、う、うん。……ん?」
「嘘は、ついてないです。好きな人なら撫でてほしいです」
そう言いながらつかさちゃんは僕の目をまっすぐ見ていた。
これはつまり、そういうことか? 僕からしてみれば、そういうことだとしか思えないわけで、調子に乗って勢いに任せてしまっても仕方ないんじゃないだろうか。
心臓が破裂しそうなくらいドキドキしてる。
この緊張から抜け出すためにも、僕はつかさちゃんにズバッと言ったのだ。
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